心不全が終末期に移行し,治療の目的が生命予後の改善からQOLの改善に大きく変化した際には,ICD,ペースメーカ,CRTに関して,本人,家族,
緩和ケアチームによる十分な話し合いのうえに停止を考慮するが,本来はこの選択肢に関して植込み手術前にも話し合っておくべきである909).また,
終末期においてバッテリー容量の低下を認めた場合には,QOLを十分考慮し,不必要な手術は控えるように留意する.近年,植込型LVADが普及し,
心臓以外の要因により終末期に至る場合も多く,LVAD停止に対する事前の十分な説明と植込み後の対応が重要とされている.補助人工心臓治療関連
学会協議会より発表された「我が国における植込型補助人工心臓適応適正化の考え方:Destination Therapy( DT)について」にも記載されているが910)
とくにDT においては,植込み手術前に終末期医療について本人,家族らに説明を行い,終末期に至った場合に植込型 LVAD 駆動中止などの延命中止
の選択肢があることを伝える.そして延命治療に関して本人の意思を事前指示書として残す.ただし事前指示書は治療経過の途中で変更可能であること
も伝える必要がある.LVADの停止を余儀なくされる状況としては,敗血症,脳塞栓,悪性腫瘍,腎不全,機器の不具合などがあげられるが,DTにおける
潜在的課題(デバイス不全,LVAD関連の重篤な合併症,衰弱した併存疾患の状態,LVAD後の不十分なQOL)について十分に説明し,患者の人生観や
価値観をふまえて,将来起こりうる課題について選択できるように支援する(preparedness planning)911).また,LVAD停止時においては,意識が清明で
あることが多く,停止後,血圧は急激に低下し,20分以内に死に至ることがほとんどであるため,本人・家族の十分な理解と準備,緩和ケアチームのサ
ポートが必要である.DTにかかわらず循環器疾患の終末期における延命治療の中止に関しては,2013年日本循環器学会・日本心臓血管外科学会合同
の植込型補助人工心臓ガイドライン831),2014年日本救急医療学会/日本集中治療医学会/日本循環器学会合同ガイドライン912)においても,事前指示・
家族意思に基づき多職種で判断し,プロセスを踏んで行うことが示されている.これらの学会指針に従って行なわれた循環器疾患終末期における延命治
療の中止あるいは不開始に対して,刑事・民事告発された事例は報告されていない.しかしながら,終末期における延命治療の中止・不開始を認めた尊
厳死法案(2012年に超党派による議員立法として立案されたが,いまだ国会提出されていない)などの法的整備がないなかで,臨床現場には延命治療の
中止に対する戸惑いがあり,法的整備が待たれる.
4.7医療機器の停止
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)