心不全の可能性は極めて低い
心不全の可能性は低いが,
可能ならば経過観察
BNP 0 40 100 200 (pg/mL)
NT- 125 400 900 (pg/mL)
proBNP
軽度の心不全の可能性が
あるので精査,経過観察
治療対象となる心不全の可能性
があるので精査あるいは専門医
に紹介
治療対象となる心不全の可能性が高い
ので精査あるいは専門医に紹介
18.4
BNP NT-proBNP
分子量約3,500 約8,500
ホルモン活性+ -
交叉性proBNP
半減期約20分約120分
クリアランスNPR-C,NEP,腎臓腎臓
採血法EDTA加血漿血清/ヘパリン加・
EDTA加血漿
添付文書記載
基準値≦18.4 pg/mL ≦55 pg/mL
濃度増加因子* 心機能低下・腎機能低下・高齢・全身炎症
濃度低下因子* 肥満
3.3 ナトリウム利尿ペプチド
 ナトリウム利尿ペプチドには心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide; ANP),BNP,C型ナトリウム利尿ペプチド(C-type
natriuretic peptide;CNP)がある.ANPは主として心房で,BNPは主として心室で合成される心臓ホルモンである52- 54).ANPは心房の伸展刺激により,
BNPは主として心室の負荷により分泌が亢進し,血中濃度が上昇する.つまり,BNPは心室への負荷の程度を鋭敏に反映する生化学的マーカーとなる
54-57).心不全では血漿ANP,BNP濃度が上昇するが,その理由として心臓での合成亢進に加えて,血中からのクリアランスが遅延していることがあげら
れる.ANP,BNPはクリアランス受容体(ナトリウム利尿ペプチド受容体[natriuretic peptide receptor; NPR-C])に結合した後に内部化によって分解され
る場合と,中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase; NEP)によって分解される場合がある.代謝と病態との関係はまだ十分には解明されていな
いが,腎機能低下によりクリアランスが低下する.腎機能低下による影響は,分子量の大きいBNP前駆体のN端側フラグメント,NT-proBNPのほうがBNP
より受けやすい(表13).心不全の補助診断法として感度,特異度の双方でBNPがANPを上回る58).BNP(またはNT-proBNP)は,心不全の存在診断,
重症度診断のほか,予後診断にも有用である59 - 64).一方,治療効果の判定マーカーとしては,他者との比較が難しい病態もあり,個人内の経時的変化
の指標として一定の意義がある.

 日本心不全学会より「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」と題してステートメントが発信されている(図6)43).このなか
で,血漿BNP濃度のもっとも厳格な基準値としては18.4 pg/mLが使用されているが(NT-proBNPでは55 pg/mLに相当65)),多施設共同研究J-ABS 66)
参考に,心不全に陥りやすい症例の血漿BNP濃度測定のカットオフ値として40 pg/mLを定めている(NT-proBNPでは125 pg/mLに相当43)).BNPには若
干個人差が存在し,とくに肥満があるとBNP濃度は上昇しにくい傾向にあるので,心不全の程度を実際より低く評価してしまう可能性があり,注意を要す
る.
表13 BNP とNT-proBNP の対比
* 濃度増加因子と低下因子に関しては,主なものだけを示している.
また,BNPとNT-proBNPのあいだで若干異なる可能性があるが,
今後の検討課題である.
図6 BNP,NT-proBNP 値の心不全診断へのカットオフ値
 (日本心不全学会 43)より)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
次へ
ダイジェスト版