・症状増悪やQOL低下
・運動耐容能の低下
・心不全入院,とくに再発
・利尿薬の漸増が続く
・症候性低血圧,高窒素血症(azotemia),ACE阻害薬やβ遮断
薬の減量や中止を必要とする不応性の体液貯留
・初回もしくは繰り返すICDショック作動
・静注強心薬の開始
・腎代替療法の考慮
・他の合併疾患,新規発症の悪性腫瘍など
・配偶者の死亡などの主なライフイベント
高齢心不全患者は年々増加しているが,患者自身の予後に対する認識には現実と解離があることが知られている545).また,緩和ケア導入の時期を見
極めることはしばしば困難であり,終末期を含めた将来の状態の変化に備えるためのアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning; ACP)が
重要とされる.ACPとは,意思決定能力が低下する前に,患者や家族が望む治療と生き方を医療者が共有し,事前に対話しながら計画するプロセス全
体を指す.実施を考慮すべき時期としては,1年ごとの定期外来および入院後の臨床経過において再評価を促す節目となる出来事があった場合の退院
前が推奨されている(表78)546).ACPは,終末期に至った際に,患者・家族が本来望まない侵襲的治療を避け,死の質(quality of death)を高めるため
のものであり,非癌患者を対象としたランダム化比較試験でもその有用性が示されている547).
ACPの1 つの側面として,終末期における事前指示(advance directive)がある.具体的には,蘇生のための処置を試みない(Do Not Attempt
Resuscitation; DNAR),終末期においてペースメーカ,植込み型除細動器(ICD),心臓再同期療法(CRT),植込み型左心補助装置(LVAD)などを停
止するかどうかに関して,多職種チームにより意思決定支援を行い(shared decision making),事前指示書を作成し,同時にその内容はその後も変更
可能であることを伝える.また,必要に応じて患者本人の意思決定ができなくなった場合の意思決定代行者を指名する.2007年,厚生労働省により策定
された「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」においては,終末期における医療およびケアの方針決定のプロセスが示され
ている(図15)548).
日本心不全学会より2016年に発表された「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」では,とくに高齢者の終末期医療においては,苦痛を緩和す
る医療処置を行うことも念頭に置く必要があり,多職種カンファレンスとACPの重要性が示されている549).また,2016年には日本集中治療医学会から
「DNAR指示のあり方についての勧告」が発表され550),表面的なDNAR指示の取得ではなく,あくまでも患者の価値観・死生観を医療従事者と共有する
プロセスが重要であるとされている.
表78 心不全患者に対しACP の実施を考慮すべき臨床経過
(Allen LA, et al. 2012 546) より抜粋)
図15 人生の最終段階における医療とケアの話し合いのプロセス
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)