推奨クラス エビデンスレベル
Minds推奨グレード Mindsエビデンス分類
心不全ガイドラインに準拠した心不全治療
自体の最適化I A A I
CPAP療法
中等度以上のCSR-CSAを合併する心不全患者に対し
て自覚症状,運動耐容能,左心機能改善を目的
Ⅱa B B II
ASV療法
中等度以上のCSR-CSAを合併する心不全患者のうちCPAPに忍容性のない,ある
いはCPAPが無効の
HFpEF患者に対して自覚症状,運動耐容能改善を目的
Ⅱa B B II
ASV療法
中等度以上のCSR-CSAを合併する心不全患者のうちCPAPに忍容性のない,ある
いはCPAPが無効の
HFrEF患者(LVEF≦45%)に対して自覚症状,
運動耐容能,左心機能改善を目的
Ⅱb B B II
漫然としたASV療法の継続
CSR-CSA を合併する
HFrEF患者(LVEF≦45%)
に対して心不全の改善また
は安定化後もCSR-CSAの
治療を目的
Ⅲ A C1 II
推奨クラス エビデンスレベル
Minds推奨グレード Mindsエビデンス分類
ガイドラインに準拠したCPAP治療
症候性OSA患者
I A A I
CPAP治療
中等度*以上のOSAを伴うLVEFの低下した心不全患者に対する左心機
能の改善を目的
Ⅱa A B I
CPAP治療
中等度*以上のOSAを伴う心不全患者の
予後改善を目的
Ⅱb C C2 III
a. OSA に対する陽圧呼吸療法(表45)
OSAを合併しLVEFの低下した心不全患者を対象としたCPAPのランダム化比較試験では,メタ解析を含め,LVEFの改善が報告されている436, 437).
予後改善が得られるとの観察研究の結果もあるが438, 439),大規模臨床試験はこれまで行われていない.
現時点では,心不全患者でもOSAは既存のSDB診療のガイドラインに従って治療されるべきであり,とくに中等度以上のOSAを有するLVEFの低下した
心不全患者に対しては,LVEFの改善を目的としてCPAPを考慮すべきである.
b. CSR-CSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸療法(表46)
通常は心不全治療の徹底後もCSR-CSAが残存する症例で考慮される.CSR-CSAを伴うHFrEF患者(LVEF≦45%)の予後に対するCPAPの効果を検
証したCANPAP 440)では,CPAP群でCSR-CSAの重症度は半減,LVEFの増加などが認められたものの,生命予後の改善効果は認めなかった.ただ
し,3ヵ月後にCPAP使用下でCSAの軽減がみられた群では,対照群とくらべ予後は良好であった441).
CSR-CSAをより軽減できるASVに関しては,ランダム化比較試験やメタ解析においてCSR-CSA合併HFrEF(LVEF≦45%)患者のLVEFが改善し,
BNPが低下することが示されている442-445).前向き観察研究では,ASVによる予後改善の可能性も報告されているが446),CSA優位のSDBを合併する
LVEF≦45%の慢性心不全患者におけるASVのランダム化試験であるSERVE-HF 272)では,ASV群で長期予後の改善は得られなかったどころか,
総死亡と心血管死亡はむしろ有意に増加していた.そのため,2016年ESCガイドラインおよび2017年ACC/AHA/HFSAガイドラインの改訂において,
CSA主体のLVEF≦45%の慢性心不全患者に対してASV使用は推奨されないとされた8, 14).しかし,わが国では同様の患者に対しても一定の制限のも
とにASVを使用することが保険で認められており,日本循環器学会および日本心不全学会では保険適用も考慮した適正使用のためのステートメント(第2
報)を発表している(付表1)271).
12.2.3 心不全に合併するSDB に対する陽圧呼吸療法
表45 心不全に合併するOSA に対する治療の推奨と
エビデンスレベル
*中等度はAHI≧15 と定義されることが一般的であるが,わが国の
保険適用レベルはAHI≧20である.
表46 CSR-CSA 合併心不全患者に対する治療の推奨と
エビデンスレベル
1) SERVE-HF 試験の被験者と同じ状態の患者(中枢型優位の睡眠時無呼吸を伴い安定状態にある左室収縮機能低下[左室駆出率≦ 45%]
に基づく心不全患者)へのASV
これらの患者に対するASV の導入・継続は禁忌ではないが,慎重を期する必要がある.実臨床においては,わが国のガイドライン1, 2) に明示
されているように,まずCPAP の導入を検討し,CPAP では睡眠時無呼吸の改善が不十分な場合やCPAP に忍容性がない場合に,ASV 導入
を考慮することが望ましい.ASV 継続中も,経過を慎重に観察しCPAP へ変更可能と判断される症例ではCPAP への変更を考慮する.いず
れにしても,わが国のガイドラインのみならずこれまでの複数の小規模臨床試験3) とSERVE-HF 試験4),SAVIOR-C 試験5) の結果や欧米で
のガイドライン,行政機関による使用規制の状況を対象患者およびその家族に説明し同意を得たうえでの導入および継続が必須である.
2) 上記1)に該当しないが睡眠時無呼吸を有する心不全患者(閉塞型優位の睡眠時無呼吸を伴う心不全患者,睡眠時無呼吸を有する左室収
縮能の保持された心不全患者[LVEF > 45%]など)へのASV
現在のところ,これらの患者へのASV の導入・継続を制限する理由はない.ただし安全性を考慮して,導入・継続後の経過を慎重に観察する必要
がある.導入に際してはCPAP で治療可能か検討したうえで必要症例に限ってASV を導入することが望ましい(保険適応に関しては,個別に考慮
する必要がある).
3) 睡眠時無呼吸の有無と関係なく高度のうっ血に対してASV が使用され奏効した心不全患者へのASV
心不全による入院中に,通常の内科治療を行っても高度のうっ血があるため睡眠時無呼吸の有無と関係なくASV が使用され,奏功した心不
全患者のうち,ASV の中止により心不全の悪化が予想される患者では,ASV を継続使用してもよい.ただし,経過中,臨床的に心不全が安
定化していると判断された時点で,またはASV 導入後6ヵ月が経過した時点で必ずASV からの離脱やASV 以外の治療へ変更可能か再検討
する必要がある.この際,可及的に睡眠時無呼吸の有無を評価し,睡眠時無呼吸を合併する症例に関しては上記1,2)に従うものとする.
4) 上記1-3)以外の患者へのASV
上記1-3)以外でのASV の使用に関しては,その是非を含め今回のステートメントの範疇に含まない.
5) 臨床研究におけるASV
SERVE-HF 試験の被験者と同じ状態の患者であっても,各施設の倫理規定に基づいて行われる臨床研究においてASV の使用は制限されな
い.しかしながら,臨床研究以外での使用状況や,これまでの複数の小規模臨床試験とSERVE-HF 試験,SAVIOR-C 試験の結果が,被験者
またはその家族に説明がなされたうえで同意が得られていることが必要である.また,すでに進行中のASV を使用する臨床研究においては
SERVE-HF 試験の結果を安全性に関するあらたな情報として各施設の該当部署へ報告する必要がある.
6) その他の注意事項
1-5)の記述に関してSERVE-HF 試験やその他の研究からあらたな情報が明らかになった場合は適宜修正,加筆が行われるものとする.
付表1 日本循環器学会および日本心不全学会によるASV の適正使用に関するステートメント(第2 報)
1) 日本循環器学会.Circ J 2010; 74 (suppl. II): 963-1051.
2)NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2 版.南江堂 2015.
3) Aurora RN. et al. J Clin Sleep Med 2016; 12: 757-761.
4) Cowie MR, et al. N Engl J Med 2015; 373: 1095-1105.
5) Momomura S, et al. Circ J 2015; 79: 981-990.
(日本循環器学会 271)より)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)