慢性の虚血性心不全の加療は基本的に他の心不全と同様であり,心機能(心保護)および心筋虚血の評価,不整脈イベントの予防,冠危険因子の管理
が中心となる.LVEFの低下した虚血性心不全症例における心保護に関しては,β遮断薬とレニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬,ARB,ミネラル
コルチコイド受容体拮抗薬[MRA])が中心となる192-194, 215, 358-360)(表36).しかし,投与にあたっては心不全増悪を配慮して少量より開始する.硝酸薬
は,長期予後改善効果については明らかではないが205),心不全の症状や血行動態の改善効果が示されており361),狭心症治療薬としては第一に選択さ
れる薬剤である.また必要に応じてニコランジル,利尿薬の使用を考慮する.

 狭心症症状を有する症例や,虚血が心機能低下の原因と証明された症例では,PCIまたはCABGの適応を考慮する362, 363).PCIとCABGの成績の優劣
に関しては,重症冠動脈疾患を有する心不全症例においてはCABGの成績が優れることがわが国のコホート研究で示唆されている364).また,日本循環器
学会の不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)における推奨に従い,一次予防目的にICDの適応を考慮する365)

 冠危険因子の管理ならびに運動療法については他項(IX.併存症の病態と治療 6. 高血圧[p. 46]9. 高尿酸血症・痛風VII. 非薬物治療 4. 運動
療法[p. 38])を参照されたい.本ガイドラインに記載されていない脂質異常症・喫煙の管理に関しては,他のガイドラインに準じる.
4.2.2 慢性心不全
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推奨クラス エビデンスレベル
Minds推奨グレード Mindsエビデンス分類
ARB
ACE阻害薬不耐例で,心不全徴候を有するかLVEFが40%
以下の心筋梗塞例に対する急性期からの投与
I A A I
腎機能悪化の懸念の少ない左室収縮不全を有する心筋梗塞
症例に対するACE阻害薬と組み合せた投与
Ⅱb B C2 II
β遮断薬
低リスク*以外で禁忌のない患者に対する投与I A A I
中等度~高度の左心機能低下のある患者に対する漸増投与I B A II
低リスク*の患者に対する投与Ⅱa B B II
冠攣縮の関与が明らかな患者に対する単独投与Ⅲ B C2 VMRA
中等度~高度の心不全において低用量で腎機能障害や
高カリウム血症がない場合の投与Ⅱa B B II
推奨クラス エビデンスレベル
Minds推奨グレード Mindsエビデンス分類
ACE阻害薬
うっ血性心不全や左室収縮障害を有する患者に対する投与
I B A I
左心機能低下(LVEFが40%未満)や心不全を有する
リスクの高い急性心筋梗塞患者に対する発症24時間以内の投与
I A A I
心筋梗塞後の左心機能低下例に対する投与I A A I
左心機能低下はないが,高血圧や糖尿病の合併,あるいは
心血管事故の発生リスクが中等度から高度の心筋梗塞患者
への投与
I A A I
すべての急性心筋梗塞患者に対する発症後24時間以内の
投与
Ⅱa B B II
心機能低下がなく心血管事故のリスクの低い心筋梗塞患者
への投与
Ⅱa B B II
表36 冠動脈疾患を合併した心不全に対する薬物治療の推奨とエビデンスレベル
*心筋梗塞責任血管の再灌流療法に成功し,左心機能が正常かほぼ
正常で,重篤な心室不整脈のないもの
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
ダイジェスト版