臨床像スコア
H 高血圧*1 1
A 腎機能障害・肝機能障害(各1 点)*2 2
S 脳卒中1
B 出血*3 1
L 不安定なPT-INR*4 1
E 高齢者(> 65 歳) 1
D 薬剤,アルコール(各1 点)*5 2
HAS-BLED スコア重大な出血発症頻度(/100 人・
年)
0 1.13
1 1.02
2 1.88
3 3.74
4 8.7
5 12.5
臨床像スコア
C 心不全1
H 高血圧1
A 75 歳以上2
D 糖尿病1
S 脳梗塞,一過性脳虚血発作の既往2
V 血管疾患(心筋梗塞の既往,末梢動脈性疾患,
大動脈プラーク) 1
A 65 歳以上74 歳以下1
Sc 性別(女性) 1
CHA2DS2-VASc スコア年間脳梗塞発症率(%)
0 0
1 1.3
2 2.2
3 3.2
4 4.0
5 6.7
6 9.8
7 9.6
8 6.7
9 15.2
臨床像スコア
C 心不全1
H 高血圧1
A 75 歳以上1
D 糖尿病1
S 脳梗塞,一過性脳虚血発作の既往2
CHADS2 スコア年間脳梗塞発症率(%)
0 1.9
1 2.8
2 4.0
3 5.9
4 8.5
5 12.5
6 18.2

 心房細動患者の脳梗塞・全身塞栓症の発症リスクとしてCHADS2 スコア(付表5)328)が臨床で広く
用いられており,
わが国では抗凝固療法の導入に際してCHADS2スコアが
採用されている.一方で,CHADS2スコアが最低の0点で
も年間脳梗塞発症リスクは1.9%と高く328).欧米諸国では
本当の低リスク群を抽出するためにCHA2DS2-VAScスコ
アが用いられている(付表6)329, 330).心不全合併心房細動
の場合には最低でもCHADS2スコアで1点となるため,禁
忌のないかぎり抗凝固療法の導入を考慮する.

 心不全に併発する心房細動に対しては従来ワルファリン
による抗凝固療法が行われてきたが,直接経口抗凝固薬
(direct oral anticoagulant; DOAC)の登場により,心不全
を合併した心房細動患者に対する抗凝固療法も変化してき
331- 334).心不全患者において,DOACはワルファリンと
比較して有効性は同等であるが,頭蓋内出血をはじめとす
る大出血が少なく安全面でより優れている335, 336).DOAC
の適応は非弁膜症性心房細動の患者に限定されるため,高
度僧帽弁狭窄症や人工弁(機械弁,生体弁)の患者にはワ
ルファリンを投与する必要がある337).心不全患者では,病
状変化や治療経過に伴って腎機能が変化することがあり,
とくにDOACを選択した場合には,減量基準や慎重投与
に注意する.抗凝固療法に伴う出血リスクの評価について
は,HAS-BLEDスコアが用いられている(付表7)337a)

 心不全の原因疾患として虚血性心疾患を有する症例では,
経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary
intervention; PCI)のため抗血小板薬2剤併用療法(dual
antiplatelet therapy; DAPT)が用いられることが多い.さ
らに,心房細動を併発すると抗凝固薬が加わり,出血のリ
スクが高まることが報告されている338).欧州心臓病学会
(ESC)のガイドラインでは,脳卒中のリスク,出血リスク,
臨床背景に応じて,抗凝固療法・抗血小板療法の内容や期
間を分類している339).WOEST試験では,ワルファリンを
内服している安定狭心症を対象に,PCI施行後3剤併用(ワ
ルファリン・アスピリン・クロピドグレル)群と2剤併用(ワ
ルファリン・クロピドグレル)群で出血イベント・血栓塞栓
イベントを比較したところ,全死亡および出血イベントは2
剤併用群で有意に低く,心筋梗塞や脳卒中,ステント血栓
症の発生率に両群間で差は認められなかった338)
1.2.4 抗凝固療法
付表5 CHADS2 スコア
(Gage BF, et al. 2001 328)より作表)
付表6 CHA2DS2-VASc スコア
(Lip GY, et al. 2010 329), Camm AJ, et al. 2010 330)より抜粋)
付表7 HAS-BLED スコア
*1 収縮期血圧>160 mmHg.
*2 腎機能障害:慢性透析や腎移植,血清クレアチニン200μmol/L(2.26 mg/dL)以上.
肝機能異常:慢性肝障害(肝硬変など) または検査値異常(ビリルビン値>正常上限×2倍,AST/ALT/ALP>正常上限×3倍).
*3 出血歴,出血傾向(出血素因,貧血など).
*4 INR 不安定,高値またはTTR(time in therapeutic range)<60% .
*5 抗血小板薬やNSAIDs 併用,アルコール依存症.
(Pister R, et al. 2010 337a)より抜粋)
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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