心房細動が併存する慢性心不全に対してβ遮断薬には予
後改善効果が認めらないことが欧米諸国の臨床試験のメタ
解析で明らかとなったが,多くはNYHA心機能分類III度
もしくはIV度,LVEFが30%未満の重症例を対象としてい
る315).このような母集団では,心拍数ではなく心房細動自
体が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられる.一方
で,心房細動を伴う中等症から重症の心不全を対象とした
レジストリー研究では,β遮断薬は総死亡を有意に抑制し,
さらに心房細動の心拍数との関連では,心拍数が100拍/分
を超えれば死亡率が有意に増加することが示された321).し
たがって,実臨床での治療に際しては,心不全の重症度に
よりβ遮断薬の予後改善効果に差が生じる可能性があるこ
とを考慮することが重要である.動悸などの心房細動に伴
う自覚症状が強い場合や,心房細動の心拍数が130拍/分以
上に増加し持続することにより心不全をきたしうるため,
心拍数調節を行う必要がある322).わが国の心房細動治療
(薬物)ガイドラインでは,心不全がない症例では安静時心
拍数を110拍/分未満と設定し,自覚症状や心機能の改善
がみられない場合には安静時心拍数を80拍/分未満,中等
度運動時心拍数を110拍/分未満にするとされている323).
慢性心不全で心房細動を併発しているが自覚症状が軽
度で血行動態も安定している場合には,心房細動の状態で
のレートコントロールを最初に考慮する.経口β 遮断薬と
してカルベジロールもしくはビソプロロールが選択肢にあ
げられるが,心不全の状態を考慮しつつ少量から投与する
必要がある.経口のジゴキシンは心拍数調節に加えて強心作用を有するが,β遮断
薬とは異なり主に夜間帯の心拍数
を低下させる324, 325).
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)