・Nitric oxide synthesis
・Serotonin(5th)tranporter(SERT alleles)
・PGI2 receptor
・Urea cycle enzymes-pathway to arginine and nitric oxide
・Vasoactive Intestinal Polypeptide(VIP)
・Beta adrenergic receptor
・Coagulation cascade polymorphism(in addition to
PAI-1,platelet glycoprotein receptors)
・Somatic mutation in BMPR1
・Potassium channel disorders
6 肺動脈性肺高血圧(PAH)
Ⅱ 各論 > 2 単一遺伝子異常 > 6 肺動脈性肺高血圧
①遺伝形式と責任遺伝子

 肺動脈性肺高血圧(PAH)の遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが,10~ 20%と低い不完全浸透率である.また家族性PAH(fPAH)には特有の表現促進現象
(genetic anticipation)があり,次世代ではより若い年齢で発症し,症状も重篤になりやすい68),69)

 fPAHの頻度は概ね6.2~10%である69)-71).つまり90%以上は孤発例であり,家族例とは男女比,発症年齢,自然歴で有意差がない.男女比は成人で1:2 だが
小児例ではその比が1 に近くなる70),71)

 fPAHの疾患座は家族例の連鎖解析により,当初は染色体 2q31-32にあると推測された72),73).しかしその後,2q33(locus PPH1)にある,transforming growth
factor β(TGFβ ) 受容体ファミリーの1つであるbone morphogenetic protein receptor type2のgermline変異がfPAHのみならず特発性PAH(iPAH)や,続発性PAH
でも認められている73)-80).2008年のDana Point 新分類では,これらの遺伝子変異を認めるもの,家族性発症を認めるものは遺伝性PAHとして分類されている.日
本人においても孤発例,家族例ともに遺伝子変異が検出されている.

② HLA 抗原

 HLA-DR,DQおよび HLA-class Ⅱとの関連は明らかでない81)が,HLA-DQB1*0301(DQ7)との関連は報告がある82)

③ PAH とBMP受容体遺伝子変異

 TGFβ 受容体ファミリーのうち,2 つの遺伝子がhPAHに関連している.正常ではリガンドであるBMP2,4,7がtypeⅠ受容体とtypeⅡ受容体とで形成されているヘテ
ロ2量体の複合体に結合し,serine-threonine tyrosine kinaseを活性化した後,Smad(Smad1,5,8とSmad4)のリン酸化と LIM kinase 等の細胞内シグナル経路を
介して細胞増殖を抑制し,またapoptosisを活性化する.BMPR2は染色体2q33上にあり,130kbで13exonから成り産物は1038アミノ酸から成る83),84).リガンドのう
ちBMP4,7は発生途中の肺芽に存在し,BMP受容体は胎児の肺形態形成に重要な役割を担っている85)

 BMP受容体typeⅡの発現はPPHで減少している78).Bmpr2 を肺血管内皮細胞から特異的に除去したマウスではPAHを生じやすい.

④BMPR2変異

 変異はexon5 とexon13を除くすべてのexonで報告されている.またexon6,8,12では多型が認められている.この変異はhPAHで70%,孤発例でも11~ 40%の
頻度で存在する.すでに140以上の部分欠失,ナンセンス,ミスセンス,フレームシフトを含む変異が報告されている.そして変異の約70%はコドンの中途終止
(premature termination)であることから,PAH発症はBMP受容体typeⅡのハプロ不全によると考えられている.ミスセンス変異は,主にリガンドであるBMPと結合す
る部分やserine-threonine kinaseの部分で生じており,これらの部分が受容体機能として重要と思われる.BMPR2変異の一般人での頻度は不明瞭であるが,少なく
とも 0.01~0.001%(1万~ 10万人に1 人)とされている.BMPR2変異の保有者は血管拡張反応が弱く診断時年齢が若く,死亡までの期間が短いことが指摘されて
いる.

⑤ ALK1 とEndoglin

 遺伝性出血性毛細血管拡張症hereditary hemorrhagic telangiectasia(HHT)(Rendu-Osler-Weber症候群)は肺,肝,そして脳血管の動静脈瘻,皮膚粘膜野毛細
血管拡張,繰り返す鼻出血,消化管出血,脊髄出血を特徴とする疾患である.このHHTでは約15%にPAHを合併し,一部の症例ではTGFβ受容体ファミリーに含まれ
るactivin receptor-like kinase type-1(ALK1) をコードするACVRL1およびendoglinをコードするENGに変異が同定されている86),87).ACVRL1変異陽性の症例はよ
り若年で発症し, 他のPAHより予後不良と考えられる.ALK1 は血管内皮細胞に特異的に発現している受容体で,TGFβが弱いながらも結合する.一方,endoglinも
血管内皮細胞に高レベルに発現しており,TGFβのTGFβ type1,type2受容体への結合を補助する働きがある.日本人小児のHHTにもACVRL1変異の報告がある.

⑥その他の遺伝子

 angiopoietin-1と内皮細胞に存在するTie2 受容体チロシンキナーゼの径路がPAHで活性化している88).このangiopoietin-1のシグナル活性化はBMP type2受容体
の正常シグナル伝達に必要なBMPR1A(BMP type1A受容体)の低下を伴っている89),90)

 BMPR2 変異と同じく,BMPR1変異もSmad依存性細胞増殖シグナルを惹起する.

 PAHの一部や食欲減退薬によるPHでは,セロトニントランスポーター遺伝子多型のLアレル(セロトニントランスポーターの発現が亢進している型)を有する頻度が高
い.実験的低酸素PHでは5-HT2B受容体が増加して結果的にセロトニンへの感受性が亢進し,細胞増殖が生じている91)

 Bmpr2 ノックアウトマウスのホモ接合体は子宮内で死亡するが,ヘテロ接合体で出生したマウスは肺動脈のみ BMPR2が発現している.このノックアウトマウスの
肺動脈由来平滑筋細胞はin vitroで異常に亢進した増殖反応を示す92)

 以上から,BMPR2につぐsecond hit,つまり修飾遺伝子の異常が存在する可能性が高い93)(表3参照)94),95).最近新たにSMAD8/9変異を有するPAHの一家系
が報告された.また,Notch3 signalの異常が報告されている.

⑦他疾患でのBMPR2変異

 食欲減退薬によるPAHでは,33人中4例に96),そして肺静脈閉塞性PH(PVOD)でも BMPR2変異が確認されている97).膠原病性PAH,HIVPAHでは変異の報
告はない.また先天性心疾患関連PAHでは106例中6例で検出されている.

⑧遺伝学的検査の意義

 現在,我が国においてBMPR2検索は数施設で行われている.実施にあたってはカウンセリングが必要である98)

 fPAHでも検査の感度は低く約50%では変異がみつからない.一方,たとえBMPR2 変異のヘテロ接合体であっても,疾患の発症には至らない場合もある.発端者
のBMPR2 変異が陽性の場合は,家族への遺伝学的検査も推奨される.fPAHの家族中66%が可能なら遺伝子検索をしてほしいと答えたという報告がある
99).BMPR2 変異陽性ハプロタイプでは,95%で労作時の異常な肺動脈圧の上昇があり,心エコー検査が必要である100).出生前診断に関しては一定の見解は出さ
れていないが,家族の選択に任せられるべきとの意見がある101)
表3 PAHのsecond hit に関連するcandidate(modifier)gene
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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