4 Alagille 症候群(ALGS1 MIM#118450)
Ⅱ 各論 > 2 単一遺伝子異常 > 4 Alagille 症候群
①概念

 フランスの小児肝臓病学者 Daniel Alagilleが1975年に記載した,肝内胆汁うっ滞に心疾患(肺動脈弁および末梢性狭窄),眼症状(後部胎生環),椎体異常(蝶形椎
体),特有の顔貌(広い額,窪んだ眼,とがった顎)を伴う症候群である36).これら5 症状のうち3つ以上を認めたとき臨床的診断がなされ,新生児・乳児期の閉塞性
黄疸で発症することが多い.Alagille自身のreview80例では,5/5が26例,4/5が42例,3/5が12例であった37).1997年にJAG1(20p12)の変異が証明され38),多くの
施設から70~ 90% 以上の患者で遺伝子変異が検出された.JAG1はNOTCH1 のリガンドをコードしている.その後,JAG1変異陰性の本症候群患者から,NOTCH2
変異(1p13-p11)が同定された.高度な腎病変が特徴的である(ALGS2 #610205)39)

 JAG1変異をもとに見直された臨床像は,表現度の幅が著しく広く,すなわち家系内で同じ遺伝子異常がありながらもほぼ無徴候から重症まで観察された.7万~10
万出生に1人とされてきた頻度は,軽症例を含めばさらに多いと考えるべきであろう.肝疾患が中核をなす症候群であり典型例の診断は容易だが,心病変のみで家族内
発症し遺伝子変異が認められる例も報告されているので注意が必要である40)

②心血管病変

 90%前後になんらかの心血管病変を伴い,肺動脈末梢性狭窄症が特徴的である.JAG1変異陽性154例と臨床診断46例,計200例の詳細な報告では,94%(187例)
に心血管病変があり,肺動脈末梢性狭窄症(70例),ファロー四徴症(23例),肺動脈弁狭窄症(15例),心室中隔欠損症(10例),心房中隔欠損症(10例),大動脈
縮窄症(4例),大動脈弁狭窄症(2 例)であった41).生命予後に影響する疾患はファロー四徴症で,肺動脈高度狭窄や肺動脈閉鎖例がみられ,適切な外科治療が予後
を改善する.肺動脈末梢性狭窄に対してバルーン拡張法(cutting balloon,stent併用)が試みられているが42),慎重に適用を考慮すべきである.なお,ファロー四徴症
230例の遺伝子分析では,JAG1変異はわずか3 例(1.3%)であった.その他に,腹部大動脈縮窄症(Middle aortic syndrome)や43),腎動脈狭窄,多発性腎嚢胞や腎
異形成,頭蓋内血管病変(動脈瘤,Moyamoya)の報告が散見され,全身に及ぶ血管病変に注意が必要である44).適宜,血圧評価,神経学的評価,画像診断(MRA
等)を考慮すべきである.

③生命予後

 症状と重症度には広い幅があるので,1例ごとに慎重に評価することが重要で,肝疾患と心疾患の重症度判定がポイントとなる.特に,小児期慢性肝疾患として重要
で肝移植の対象となり得る.小児臨床遺伝部門や小児肝疾患専門部門から報告された,324例の長期予後(平均観察期間約10年)はかなり厳しいものであった.肝移
植施行28%(91例),死亡27%(88例),最も多い死因は肝不全である.新生児期の胆汁うっ滞で発症した場合は特に予後不良であるが,遅発性発症もあり得る45)-
47).肝疾患と心疾患に続く頭蓋内出血も注目すべきで,約10%(22例)にみられた.脳動脈瘤等の血管病変が重要で,凝固障害による出血傾向や高血圧も増悪因子と
なる.さらに,重篤な肝障害がなくても,あらゆる臓器で好発する出血に注意が必要である.

④原因と遺伝カウンセリング

 常染色体優性遺伝である.責任遺伝子として,20p12に局在するJAG1の変異が証明され,70~ 94%の患者で遺伝子変異が検出される38),40).JAG1は広範な臓器
で発現しているが,発生過程では,JAG1 タンパクは細胞表面に発現し,Notchシグナル系のリガンドとして機能しており,JAG1-Nocth結合が成立した細胞は,将来に
備えるべく分化が停止される.全欠失,フレームシフト,点変異等多彩な遺伝子異常由来の変異JAG1 タンパクがJAG1-Nocth結合に対してdominant-negativeに作用
する可能性がある.JAG1 陰性例に,発生学的意義をほぼ同じくするNOTCH2 の変異が認められた(#610205).

 変異と表現型には相関が乏しく,さらに同一家系内でも臨床像は異なる. 浸透率94 %(Dhorne-Pollet,1994),de novo変異による孤発例は15~ 50%といわれる
48).しかし,発端者の家族調査からJAG1変異を認めた53例の検討では,21%(11例)のみが臨床所見(3/5)からの診断可能,32%(17例)軽度の所見,47%(25例)
で所見なしであった49).心病変以外に所見がないにもかかわらず遺伝子変異を認めた例も報告された40).慎重な臨床診断とともに,疑わしい場合は家族の遺伝学的検
査の意義を説明すべきである.父親からよりも母親からの遺伝証明が多い(33家系中,母12,父3)ことは,胎内環境も一因かもしれない. 片親にモザイクが証明され
ることもある(4/51家系)50),51)
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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