2 心中隔欠損
Ⅱ 各論 > 2 単一遺伝子異常 > 2 心中隔欠損
 心中隔欠損は,単独の先天性疾患のなかで最も頻度が高い心室中隔欠損症(VSD)30%(出生300 に1 人)や心房中隔欠損症(ASD)10%(出生1,000に1人),心
内膜床欠損症(ECD,AVSD)数%が含まれる,臨床的に重要な疾患群である16).心室中隔欠損症では人種による欠損部位の違いがあり,心房中隔欠損症は女性
に多い.心内膜床欠損症はDown症候群(21トリソミー)に高率である.これらは,欠損症発生に特定の遺伝子が関与していることを示唆した.さらに心疾患を伴う多く
の症候群が心中隔欠損を合併し,その遺伝子座が確定してきたが,病型に特異的とはいえない(Gruber PJ らのreview の表参照)17),18).NKX2-5(伝導障害を
伴う心房中隔欠損症),TBX5(Holt-Oram症候群)に次いで,家族性二次孔心房中隔欠損症にGATA4変異が証明された意義は小さくないが19),これら転写因子は
相互にそして多くの下流遺伝子群へ作用するカスケードに特徴があり,発生機序の解明は複雑さを増したともいえる.心房および心室中隔は複数の組織からなり,組
織成長と癒合閉鎖に至る複雑な時間的空間的過程が想定される.さらに,胎生期血行動態の胎児心臓への作用も病態を修飾する.日常診療でcommon diseaseと
して遭遇する心中隔欠損を遺伝子レベルで理解することは,いまだ容易ではない.

 遺伝学的検査の臨床的意義は,臨床家を困惑させるテーマである.外科治療の進歩により,単独疾患としての心中隔欠損の生命予後が著しく改善して一般人と遜
色ない今日,多因子遺伝を反映した経験的再発率を示して患者家族を励ましているのが遺伝カウンセリングの現状である.しかし,濃厚な家族例では新たな遺伝子
変異が発見される可能性があり20),遺伝子解析の目的に研究的側面があることを率直に説明し,プライバシーの保護を前提に協力を願うことがある.
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
次へ