5 染色体異常症の検査に関するガイドライン
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①発症者を対象とする染色体検査

 染色体検査は,通常,発症者の確定診断を目的として行われる.結果的にその情報が,両親および血縁者に影響を与える可能性があることについて,検査前に十
分説明し,理解を得なければならない.

②保因者の判定を目的とする染色体検査

(1 )染色体検査は,染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往を有する場合,両親のいずれかが保因者であるかどうかを明らかにし,将来,子孫が染色体異
   常症に罹患する可能性を予測するための保因者検査として行われることがある.
(2 )両親が均衡型転座保因者でない場合,次子の再発率は無視できる程度に低いと考えられるが,性腺モザイクの可能性を考慮すると,一般集団と全く同等とはい
   いきれない.
(3 )保因者検査を行うにあたっては,被検者に対して,その検査が本人の健康管理に直接役立つ情報を得ることを目的とするのではなく,将来の生殖行動に役立つ
   可能性のある情報を得るために行われることを十分に説明し,理解を得なければならない.
(4 )保因者検査を行う場合には,担当医師および関係者は,診断の結果明らかになる遺伝的特徴に基づいて,被検者およびその血縁者や家族が差別を受ける可能
   性について十分に配慮しなければならない.

③出生前染色体検査および診断

(1 )出生前検査および診断として染色体検査を行うにあたっては,倫理的および社会的問題を包含していることに留意しなければならず,特に以下の点に注意して
   実施しなければならない.
   ⅰ )胎児が罹患児である可能性(リスク),検査法の診断限界(特に低頻度のモザイクは診断できないことがある),母体・胎児に対する危険性,副作用等につい
      て検査前によく説明し,十分な遺伝カウンセリングを行うこと.
   ⅱ )検査の実施は,十分な基礎的研修を行い,安全かつ確実な検査技術を習得した産婦人科医により,またはその指導のもとに行われること.
(2 )侵襲的な絨毛採取,羊水穿刺等による,出生前染色体検査・診断は,日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」9)に従って,夫婦から
   の希望があり,検査の意義について十分な理解が得られた場合に行う.
   ⅰ )夫婦のいずれかが,染色体異常の保因者である場合.
   ⅱ )染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往を有する場合.
   ⅲ )高齢妊娠の場合.
   ⅳ )その他,胎児が重篤な染色体異常症に罹患する可能性のある場合.
(3 )出生前診断技術の精度管理については,常にその向上に務めなければならない.

 母体血清マーカー検査の取り扱いに関しては,厚生科学審議会先端医療技術評価部会出生前診断に関する専門委員会による「母体血清マーカー検査に関する見
解」,日本人類遺伝学会倫理審議委員会による「母体血清マーカー検査に関する見解」,および日本産科婦人科学会周産期委員会による報告「母体血清マーカー検
査に関する見解について」を十分に尊重して施行する.
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心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)