① 18 トリソミー症候群

1 )疾患概念
 18番染色体のすべてまたはその一部の重複(トリソミー)を原因とし,種々の外表・内臓形成異常と精神運動発達遅滞を合併する症候群.先天性心疾患(~ 100%:
VSD,PDA,ASD等)を伴う.予後不良のため,外科治療は制限されることが多いが,近年,家族との綿密な遺伝カウンセリングの上,外科手術を行った症例の報告
例が増加しつつある14).ただし,明確な手術適応基準はない.

2 )診断
 染色体検査,FISH法

3 )発生頻度
(1 )出生児のなかで,21トリソミーに続き,2 番目に発症頻度が高い常染色体異常である.
(2 )1人/6,000~8,000出生の発生率( 報告により1/3,600~ 1/8,500とばらつきあり.近年,中絶の増加により発生率は減少傾向にある).
(3 )人種間の差異はないと考えられている.
(4 )性比:胎内での診断時の性比は,男児を1としたときの女児の割合は0.9だが,出生した児の性比は0.63となり,出生までに女児優勢のselectionがかかる.

4 )遺伝的要因(染色体核型)
 最も表現系に関与する余剰染色体領域は 18q11-q12である.
(1 )標準型18 トリソミー(93.7%):減数分裂もしくは体細胞分裂における染色体不分離が原因.95 %は母由来.父由来はpostzygoticが主である.母由来の不
   分離は第1減数分裂に比して第2減数分裂に2倍の頻度で起こる(他のトリソミーでは通常は第1減数分裂に起こるパターンが多い).母体年齢とともに増加.
   再発率 1%以下.
(2 )モザイク(4.6%):体細胞分裂時の染色体不分離が主体.表現系は多岐にわたる.
(3 )転座型(1.7%):まれ.

5 )再発率
 再発率は母体年齢とともに増加.

6 )出生前診断
 胎児エコー上絨毛膜叢嚢胞,large systerna magna,苺状頭蓋冠・overlapping finger.

 3rd trimesterのトリプルテスト:hCG↓uE3↓は18トリソミーの可能性大.

 1st trimester(8~13週)でのpregnancy-associated plasma protein A(PAPP-A) やfree beta-human chorionic gonadotropin(beta-hCG)低値は,早期診断に
有用と期待されている.

 母体年齢とPAPP-A,beta-hCGを組み合わせたスクリーニングの検出率は76.6%,偽陽性は0.5%といわれている.

 胎児エコー上での異常検出頻度は,手指の持続する位置異常89%;絨毛膜叢嚢胞43%;胎児頭蓋形態異常(strawberry or lemon)43%;単一臍動脈40%;心形
成異常37%;子宮内胎児発育不全(IUGR)29%;臍帯ヘルニア20%;neural tube defects 9%;cystic hygromaあるいはリンパ管拡張14%;羊水過多・羊水過小
12%;腎形態異常9%.

7 )症状・予後・管理
 周産期の異常:早産,過期産,羊水を児が嚥下しないことに起因すると考えられる羊水過多(30~ 60%),腎低形成に起因する二次的な羊水過少,小胎盤,単一臍
動脈,低出生体重児,子宮内胎児発育不全,胎児仮死,骨格筋と皮下組織の低形成,体動微弱,啼泣微弱,知能障害,筋緊張亢進,音に対する反応低下.

 心血管合併症(90%以上):90%以上の症例に心室中隔欠損症(VSD)+複数の弁疾患を合併するとの報告あり.ファロー四徴症(TOF)もみられる.他はASD,
PDA等.10%ほどのケースではより複雑な心形成異常を合併する.DORV,AVSD,CoA,TGA,HLHS(左心低形成症候群)等.弁異常は余剰もしくは肥厚した弁
尖が主体だが,多くは血行動態的に軽度な異常にとどまる(50%以上に合併するのは心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存.10~50%に合併するのは弁の異
形成,大動脈縮窄).新生児期の致死的な問題として心疾患が主体となることはむしろ少ない(19%).しかし,早期の肺高血圧(PH)進行が問題となることがある.肺
血管床の内膜,中膜の肥厚が早期より高度とする報告がある.他のVSD合併症例より,18トリソミーでは特にPHの進行が急速であるとする意見が多い.治療は心不
全療法やチアノーゼやPHに対する酸素投与,モニタリングが主体となる.新生児期を乗りきると,体重増加不良,PHが症状の主体となることが多い.手術適用は家族
との相談を要する.大半の手術症例は入院を継続しているものが多い.

 悪性新生物:年齢が上がると,18トリソミーではWilms腫瘍や肝芽腫の発症リスクが上昇する.Wilms腫瘍は新生児期の病理解剖上,腎腫瘤として発見されるこ
とが知られており,一般集団における発症機序とは異なる可能性が示唆される.

 中枢神経系:精神運動発達遅滞(100%),筋緊張低下→亢進,中枢性無呼吸発作,けいれん発作,形成異常として小頭症,小脳低形成,髄膜脳瘤,髄膜脊髄瘤
(5%),無脳症,水頭症,全前脳胞症,Arnold-Chiari奇形,脳梁低形成・欠損,大脳鎌欠損,前頭葉欠損等.

 頭部:後頭部突出,頭蓋幅狭小,大泉門拡大.
 顔貌:眼間解離,内眼角贅皮,コロボーマ,白内障,角膜混濁,網膜色素異常,(白内障,角膜混濁等の眼自体の異常が約10%にみられる),上向きの外鼻孔,短
い鼻,後鼻孔閉鎖,耳介低位,眼裂短小,口蓋狭小,小顎,顎後退,小口症,口唇口蓋裂,小眼球症,歯の萌出時期は平均13.9か月.1/3に歯科的問題(歯列の乱
れ,形成不全).

 聴覚器:中耳の拡大,側頭骨形成不全,中等度から重度の感音性難聴あり.小耳症,外耳道閉鎖,小耳介,隠耳症,ひだがなく単純な耳輪が認められる.

 骨格:重度成長障害,固く握られた手,第2指の第3指へのoverriding,第5指の第4指へのoverriding,屈指症,合指症, 橈骨欠損をはじめとするpreaxial limb
deficiencies(5~10%),外転尖足・外反踵骨(50%),関節拘縮,側弯症(椎骨形成不全と無関係に存在,進行性),椎骨形成異常,肋骨形成異常,指趾爪低形成,
母趾短小背屈,rocker-bottom foot,胸骨短小と骨化中心減少,項部皮膚余剰,短頸,小骨盤,股関節開排制限,小乳頭.

 呼吸器:肺低形成,肺葉分画異常,喉頭軟化症,分泌物・舌根沈下等による上気道閉塞(呼吸障害が新生児期の重要な死因となる)10~ 50%に右肺分葉異常,
横隔膜筋の低形成・横隔膜弛緩症,10%未満に気管食道瘻.気管軟化症,反復性下気道感染症・無気肺も合併しやすい.

 消化管:臍帯ヘルニア,鼠径ヘルニア,横隔膜ヘルニア,横隔膜弛緩症,共通腸管膜,腸回転異常,回腸閉鎖,Meckel 憩室,食道閉鎖,食道気管瘻,虫垂欠損,
副脾,胆道胆管欠損,肥厚性幽門狭窄,鎖肛・肛門位置異常,総排出腔外反症,腹直筋離開,Prune belly anomaly(10~ 50%に食道閉鎖,10%未満に鎖肛,幽
門狭窄).

 泌尿生殖器:嚢胞腎,重複尿管,巨大尿管,水尿管症,水腎症,馬蹄腎(2/3の症例に合併),腎尿管無形成,ただし,腎形態異常に比して,腎不全が問題となるこ
とは少ない.尿路感染の頻度は高い.スクリーニングとしての腎エコーは生後早期に求められる.停留精巣,陰核肥大,尿道下裂,小陰茎,陰唇低形成,卵巣低形
成,双角子宮,内分泌:胸腺低形成,甲状腺低形成,副腎低形成.

 皮膚:過剰皮膚,前頭部から背部の多毛,皮膚斑紋の強調,蹄状紋優位,第Ⅴ指遠位屈曲線欠損.

 予後不良で,およそ95%の受胎は胎内で死亡すると考えられている.40%のlive birthは生後1か月まで生存,5%の児は1歳まで生存,1%の児は10歳を超えて生
存するチャンスがある.

② 13 トリソミー症候群

1 )疾患概念
 13番染色体のすべてまたはその一部の重複(トリソミー)を原因とし,種々の外表・内臓形成異常と精神運動発達遅滞を合併する症候群.先天性心疾患(90%:
VSD,PDA,ASD等)を伴う.18トリソミー同様予後不良のため,外科治療は制限されることが多く,18トリソミーに準じて検討される.

2 )診断
 染色体検査,FISH 法.

3 )発生頻度
(1 )出生児のなかでは,21トリソミー,18トリソミーに続き,3番目に発症頻度が高い常染色体異常である.
(2 )1 人/5,000~ 12,000出生の発生率(近年では出生前診断・中絶の増加により,頻度は1/20,000~ 1/29,000とする報告あり)
(3 )人種間の差異はないと考えられている.
(4 )性差:女性が優位,加齢とともにさらに女性優位に傾く傾向にある.

4 )遺伝的原因(染色体核型)
 13q遠位部部分トリソミーでは,心形成異常,口蓋裂,眼異常の頻度は低い.多核白血球の核小突起やHbF(胎児ヘモグロビン)の増加はほとんどみられない.

 13q近位部部分トリソミーでは,重症な内臓奇形は少なく,多核白血球核小突起は増加,知能障害は著明.

(1 )標準型13トリソミー(約80%):第1 もしくは第2減数分裂のどちらでも起こり得るが,第1減数分裂での不分離が多い.体細胞分裂時に不分離が起きた場合
   にはモザイクとなる.他のトリソミーに比して転座型が多い.そのほとんどが散発性D/D転座.特に13/14転座が多い. 母由来が90 %. 父由来はpostzygotic
   mitotic errors が主である.母体年齢とともに増加.再発危険率1%以下.母体年齢に左右されるが,概算で0.5%程度.
(2 )モザイク(少):その比率の程度により重症度は変わる.
(3 )転座型(約5~ 20%):13;14 unbalanced Robertson 転座が主である.13~15,21,22番染色体等と起こる.13;13転座ではmitosisで産生された
   isochromosomes が原因である.部分トリソミーもしばしばみられる.

5 )再発率
 再発率は母体年齢とともに増加する.

6 )出生前診断
 胎児エコー上,全前脳胞症でみつかるケースが多い.18トリソミーと異なりトリプルマーカー等は役に立たない.

7 )症状・予後・管理
 出生時の APGAR 値は低値.口唇裂,口蓋裂,多指症,小頭症,Rocker-bottom feet,小眼球症,頭皮・頭蓋骨の部分欠損,臍ヘルニア,その他のヘルニアの存
在が特徴的.死産や子宮内胎児死亡が多い.

 心血管合併症(80%):心房中隔欠損(ASD),心室中隔欠損(VSD), 動脈管開存(PDA), 右胸心(Dextrocardia)の合併が主.18トリソミーに比して,弁疾患の
合併は少ない.DORVの合併例あり.弁異常は余剰もしくは肥厚した弁尖が主体だが,多くは血行動態的には軽度な異常にとどまる.新生児期の致死的な問題とし
て心疾患が主体となることはむしろ少ない.しかし,早期の肺高血圧(PH)進行の問題あり.新生児期を乗りきると,体重増加不良,PH が症状の主体となることが多
い.手術適用は家族との相談を要する.

 その他の症状:全前脳胞症(60~ 70%),単眼症,猿頭症(鼻が欠損もしくは両眼が近接),顎骨前方の無形成,無嗅脳症,小脳奇形,脳梁欠損,水頭症,小頭,
前額傾斜,眼合併症(50%以上;小または無眼球症・コロボーマ・網膜異形成・硝子体異形成・白内障・角膜混濁・緑内障),耳介下方付着,耳介変形,中耳の拡大,
側頭骨形成不全あり.中等度から重度の感音性難聴あり.小耳症,外耳道閉鎖が認められる.口唇口蓋裂,鼻背扁平,頭皮および頭蓋骨の欠損, 前額部血管腫,
anterior cowlick.横隔膜ヘルニア,臍ヘルニア,腸回転異常,異所性脾,異所性膵,嚢胞腎,重複腎,重複尿管,双角子宮,卵巣形成不全.多指症(60~ 70%;特
に手のpostaxial polydactyly), 合指症,overlap-finger,rockerbottom feet,外転尖足・外反踵骨掌紋では軸三叉高位,猿線,指紋では弓状紋,足底紋腓側弓状 S
状紋(arch fiber S pattern),髄膜瘤,喉頭軟化症,上気道狭窄(呼吸障害が新生児期の重要な死因となる).

 血液学的検査:多核白血球の核小突起増加,過分葉,HbF(胎児ヘモグロビン)高値,HbA2 低値,HbGower2 の出現,GPT,acid-Ph,ALP,LDH上昇.

 予後は不良で,82 %は1 か月以内に死亡,95%が6か月以内に死亡する.少数のみが10代まで生存.成人例は非常にまれ.最も一般的な死因は心肺停止69%;
先天性心疾患13%;肺炎4%.長期生存例は,重度の精神発達遅滞がない例である.

③ Turner 症候群

1 )疾患概念
 (1)女性型外性器,(2)性腺萎縮による原発性無月経,(3)低身長,(4)性染色体構成が,正常X染色体が1つのみか,あるいはXまたはY染色体構造異常を伴う症
候群.

2 )診断
 染色体検査

3 )発生頻度
 出生女児2,000人に1人程度.

4 )遺伝的原因(発症者の染色体核型と発生原因)
 ほぼ30 % が45,X核型で, 残りは45,X/46,XX,45,X/46,XYモザイク,Xの構造異常,または45,Xと構造異常のモザイク.

 45,Xでは,母側のXが残っている場合と父側のXが残っている場合とがあり,その比率は理論的には2:1,DNA多型を使って実際に調べた結果では4:1.母年齢
は正常より低いとする説と同じだとする説がある.自然流産のほぼ 10%は45,Xで,45,Xの新生児1人に対して,199人が自然流産として失われている計算となる.

 X・Y短腕末端の相同な2.3Mbに及ぶ偽常染色体領域(pseudo autosomal region1;PAR1)の末端近くにあるSHOX,Y染色体特異的成長遺伝子GCYが低身長に
関係する.その他,PARのリンパ管形成遺伝子,卵母細胞における性染色体対合不全,染色体不均衡による非特異的な広汎的発達障害が想定される.

5 )再発率
 45,X女性は性腺異形成による索状性腺を有し,無月経のため不妊なので,再発率の意義はない.しかし例外的に妊娠した症例の報告があり,13例,21回の妊娠
では,自然流産が6回,死産が2回,残りの13回が生産であった.生産のうち帝王切開による出生が4例,脳水腫・口蓋裂が各1 例,21トリソミーが1例だった.自然流
産,周産期の障害,形成異常,21トリソミーが多いのは,45,X女性では暦年齢に比べて生理的年齢が高齢であるためと考えられている.45,X/46,XXその他のモザ
ク型Turner 症候群では第二次性徴・月経周期は1/3に発現し,妊娠率も非モザイク型Turner 症候群よりは高いとされている.

6 )出生前診断
 胎児超音波異常:妊娠10~ 14週の超音波検査で項部透明層拡大を認めたら,18トリソミー,45,X,21トリソミーが疑われ,羊水染色体検査がすすめられる.馬蹄
腎・左側心形成異常を認めた場合にも 45,Xが疑われる.

7 )原因遺伝子
 X・Y短腕末端の相同な2.3Mbに及ぶPAR1の末端近くにあるSHOX,Y染色体特異的成長遺伝子GCYが低身長に関係する.その他,PARのリンパ管形成遺伝子
(未同定)が想定される.

8 )症状・予後・管理
・出生後は以下の症状から疑われ,染色体検査により診断される.
(1 )新生児のTurner 徴候:足背・手背の浮腫,翼状頸,大動脈縮窄.
(2 )低身長:小学校入学時に身長100cm以下.Tuner 症候群では出生時に-1SD,入学時に-2SD~-2.5SD,思春期に-3.5SD~-4.0SD,成人で-2.5SD~
   -3.5SD.
(3 )無月経:一次性無月経が大部分だが,二次性のこともある.

・症状の特徴,管理は以下の通り.
(1 )低身長:SHOX,GCY欠失,染色体不均衡により生じる.成長ホルモンが有効.
(2 )外表奇形:中手骨短縮,外反肘,翼状頸,楯状胸等.
(3 )性腺異形成:減数分裂時の相同染色体対合不全により説明される.ホルモン療法が有効.思春期年齢からのエストロゲン製剤の経口投与により二次性徴を誘発
   し,その後 Kaufmann療法による月経誘導を行う.

・先天性心疾患(15~ 40%)
 大動脈縮窄,大動脈二尖弁,大動脈弁狭窄,大動脈弁閉鎖不全,左心低形成症候群等の左心系の異常が多い.流産児の 75 % が左心系病変によるものであると
の報告もある.

 特徴的かつ注意すべきものは,大動脈瘤,大動脈拡張等の大動脈基部の異常.大動脈縮窄,大動脈弁狭窄に関連して発症することが多い.若年から高血圧を合
併する例が多い.解離性大動脈瘤の危険があり,10代での死亡例もある.病理組織学的には,Marfan症候群と同様,中膜壊死の所見を呈する症例が多い.

 大動脈縮窄に対するバルーン拡張術は,大動脈解離の危険性から控えたほうがよい.

・腎臓疾患(25~ 40%)
 馬蹄腎が最も多い.その他,重複腎盂・尿管,回転異常,無形成腎,異所性腎,尿管膀胱接合部の狭窄等がある.膀胱尿管逆流現象,尿路感染症に対する治療が
必要な場合がある.
4 その他
Ⅱ 各論 > 1 染色体異常 > 4 その他
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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