2 Williams症候群
Ⅱ 各論 > 1 染色体異常 > 2 Williams症候群
①疾患概念

 幼児期の特徴的な妖精様顔貌,精神発達遅滞,特異な性格,大動脈弁上部狭窄等の心血管病変,乳児期の高カルシウム血症等を有する隣接遺伝子症候群.

②診断

 FISH法によりELN遺伝子を含むプローブで,7q11.23微細欠失を証明する.

③発生頻度

 20,000人に1 人.男女差なし.

④遺伝的原因

 典型例には染色体7q11.23領域の欠失を伴うヘテロ接合体が認められる.

⑤再発率

 どちらかの親に欠失がある場合,再発率は50%(常染色体優性遺伝).

 孤発例が多い.母親由来の遺伝子欠失の場合に強い成長障害,小頭症を認める報告があり,成長を規定する因子にゲノム刷り込み現象の関与が考えられている.

⑥出生前診断

1 )適用
 (1)前児に欠失あり,(2)どちらかの親に欠失あり,(3)家族性大動脈弁上部狭窄症(SVAS)の場合に,出生前診断が考慮される.

2 )方法
 羊水検査(妊娠15~ 18週),絨毛検査(妊娠9~12週)において染色体FISH分析が有用ある.海外では着床前診断の報告もある.

3 )限界
 検査により欠失が明らかになっても,児の表現型,重症度,予後の正確な予測はできない.検査を行った後も慎重な対応,カウンセリングが必要である.

⑦原因遺伝子

 7q11.23の欠失領域には,エラスチン遺伝子(ELN)を含む20あまりの遺伝子が存在する.

1 )ELN
 半接合体欠失のためエラスチンタンパク発現量の低下を来たす.エラスチン機能欠損マウスでは,全身の動脈中膜平滑筋層の肥厚による内腔狭窄が認められる.
家族性大動脈弁上部狭窄症(SVAS)家系において,ELN変異が検出されている.以上より,ELNは,本症候群における SVAS,末梢性肺動脈狭窄症(PPS)の疾患
遺伝子と考えられる.

2 )LIMK1
 脳に発現が認められ,アクチンフィラメントの重合,脱重合に不可欠なコフィリンをリン酸化する.アクチンフィラメントのダイナミクスは軸索誘導に関与する可能性があ
ることから,LIMK1 遺伝子の欠失が本症候群の視空間認知障害と関連していると考えられる.

3 )HPC-1/Syntaxin1A 遺伝子(STX1A)
 神経細胞において神経発芽と伝達物質の開口放出に関わる神経可塑性制御因子と考えられ,神経や内分泌細胞において,ホルモン等の伝達物質の分泌を促進
する作用があると推測される.また,神経終末のシナプス小胞の前シナプス膜への融合を誘導する複合体を他の数種類のタンパクとともに構成する形質膜結合タンパ
クであり,特異的空間認知障害の候補原因遺伝子と考えられる.最近,カルシウムチャネル,クロライドチャネルとの関わりも報告されており,本症候群の患者の特徴
的な症状である特異的空間認知障害,優れた記憶力,豊かな音楽感性や高血圧の発生機序にイオンチャネル異常が関与している可能性も高い.

⑧症状・予後・管理

 乳児期には,嘔吐,便秘,哺乳不良,コリックによる体重増加不良を認め,筋緊張低下,物音に過敏で育てにくい場合が多い.高カルシウム血症を認めることがあ
り,通常は幼児期までに改善するが,ビタミンD代謝異常が残ることが多い.中耳炎を繰り返す.約50%に鼠径ヘルニアを認め,手術を必要とする.

 幼児期には,厚い唇,長い人中,大きな口,鼻根部平坦,腫れぼったい上まぶた,頬が丸い特徴的「妖精様」顔貌,過剰に陽気で多弁な「カクテルパーティー様」性
格,嗄声に加え精神発達遅滞が顕著となる.1人歩きは平均で21か月,発語が21.6か月と遅れを認める.SVAS(64%),PPS(24%),VSD(12%)等の心疾患の評
価はほとんど幼児期に行われ,18%で手術が必要である.SVASは進行性であるが,PPSは改善することが多い.

 学童期には,ほとんどの患児が学業において問題を抱え,IQは平均56である.視空間認知障害,特異的認識パターンを認める.注意欠陥障害を84%で認める.一
方,言語発達,記憶力は良好.豊かな音楽感性をもつ.微細運動を必要とする活動が苦手.共同性斜視や遠視等視覚障害および音への過敏性等も目立つ.不正咬
合,エナメル形成不全等がみられる.夜尿,便秘が多い.頻尿もすべての年齢層で認められる.関節可動制限が進行し,つま先歩行,脊椎前彎がみられる.

 成人期には,顔貌は幼児期の丸い顔から細長い輪郭,長い頸へと変化.平均 IQ58.5で,重症から境界例までの精神発達遅滞を認める.大部分は精神発達の問題
により社会適応できない.先天性心疾患に加え高血圧(22歳以上の 60%)が認められる.脳血管障害発作にも注意が必要.慢性便秘,胆石,結腸憩室等の消化器
症状や肥満がみられ,尿路感染症を繰り返す.進行性関節可動制限(90%),脊椎前彎,側彎が認められる.身長は,乳児から幼児期は低いがキャッチアップし,平
均の最終身長は-2SD程度となる.骨年齢は標準的.

 全年齢を通じてビタミンDを含む総合ビタミン剤の投与には注意が必要である.また,麻酔中の突然死の報告があり,心臓カテーテル検査や外科手術に際しては,
注意を要する.乳児期から聴覚,視覚の試験を随時行い,言語療法等のサポートを行う.不明熱の際には尿路感染症の可能性が常にある.

 本症候群は年齢を通じて症状の進行を認める疾患であり,加齢により特に精神神経面の問題,高血圧が顕著になる.これらの症状に対し,医療的,社会的介入が
必要である.

心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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