1 22q11.2欠失症候群
Ⅱ 各論 > 1 染色体異常 > 1 22q11.2欠失症候群
①疾患概念

 先天性心疾患,特徴的顔貌,胸腺低形成,口蓋裂・鼻咽腔閉鎖不全,低カルシウム血症,精神発達遅滞を主徴とし,DiGeorge症候群,velo-cardio-facial症候群,
および円錐動脈幹異常顔貌症候群等を含む染色体微細欠失症候群.

②診断

 FISH法でTUPLE1/HIRA遺伝子を含むプローブを用い,22q11.2微細欠失を証明する.

③発生頻度

 4,000~ 5,000人に1人.先天性心疾患では21トリソミーに次いで2番目に多く,円錐動脈幹心形成異常では最も頻度が高い染色体異常である.

④遺伝的原因

 22番染色体長腕q11.2領域のヘテロ微細欠失に起因し,欠失領域(1.5~ 3Mb)にある遺伝子のハプロ不全(haploinsufficiency)と考えられる.染色体FISH分析に
より,95%以上の患者で22q11.2領域の3Mb(typically deleted region ; TDR)または1.5Mbの欠失が認められる.染色体上の欠失領域の両端にDNA反復配列が存
在し,染色体組み換え時のミスマッチにより,均一な欠失が高率に起こると推測されている.欠失が均一であるにもかかわらず,臨床症状は極めて多様で,遺伝子型
と表現型に相関は認められない.また,同一の欠失を有する,表現型の異なる一卵性双生児例の報告が複数あり,胎内環境の違い(血流の差等)が関与することを示
唆する.

⑤再発率

 どちらかの親に欠失がある場合,再発率は50%(常染色体優性遺伝).

 多くは散発性だが,10~ 20%は家族性(常染色体優性遺伝).家族例では,母親由来が多い(約70~ 80%).

 両親に欠失がない場合,次子再発率は無視できる程度に低いと考えられるが,性腺モザイクの報告例があるため,一般集団と全く同等とはいいきれない.

 FISH法による両親の染色体分析は,再発率の予測に有用.家族例では,家族内で重症度に差があり(variable expression),第一世代より第二世代において症状
が重く,親の臨床症状が目立たない場合が多い.親に軽症の心疾患,特徴的顔貌,口蓋裂の治療歴,軽度の精神発達遅滞等が認められる場合,22q11.2の微細欠
失保因者であることが疑われる.

⑥出生前診断

1)適用
 (1)前児に欠失あり,(2)どちらかの親に欠失あり,(3)胎児エコーで心臓流出路異常が検出された場合に,出生前診断が考慮される.

2)方法
 羊水検査(妊娠15~ 18週),絨毛検査(妊娠9~ 12週)において染色体FISH分析が有用である.海外では着床前診断の報告もある.

3)限界
 検査により欠失が明らかになっても,児の表現型,重症度,予後の正確な予測はできない.検査を行った後も慎重な対応,カウンセリングが必要である.

⑦原因遺伝子

 欠失領域には,約30の遺伝子が単離されているが,最近の発生生物学的研究により,この領域に含まれるTBX1が最も重要な原因遺伝子と考えられている.他に
もいくつかの遺伝子が本症候群の症状に関与していると考えられる.

1)TBX1
 本症候群の症状を呈し,欠失をもたない患者10家系13人の解析において,3 種類の異なるTBX1の点変異が報告され,TBX1が本症候群の主要な原因であることが
ヒトで証明された.Tbx1欠損マウスは,ヘテロでは 20~ 50%に大血管形成異常が認められ,ホモ接合体では100%に心臓流出路異常,口蓋裂が認められた.本症
候群のすべての表現型には,TBX1以外の遺伝子の欠失や,二次的な遺伝的・環境的要因が関与する可能性がある.

2)UFD1L, HIRA/TUPLE1, CRKL
 心臓流出路の表現型に関与する遺伝子として報告されている.ヒトではこれらの遺伝子に関する単独の変異を示した報告はない.

3)COMT, PRODH
 本症候群の精神症状に関連する遺伝子と考えられている.ヒトではこれらの遺伝子に関する単独の変異を示した報告はない.

4)GP1BB
 本症候群の血小板異常に関与している可能性がある.本遺伝子のホモ変異は,ヒトBernard-Sourier症候群(血小板膜糖タンパクGPIb/ Ⅸ複合体欠損による先天性
止血異常症)を来たす.

⑧症状・予後・管理

 先天性心疾患(75%),顔貌異常(ほぼ全例),胸腺低形成に伴う免疫不全(重症 1~ 2%),口蓋裂(9%),鼻咽腔閉鎖不全(32%),低カルシウム血症(無症候性
47%,症候性 12%),精神発達遅滞(軽症 50%,中等度 15%,重症 3%),成人期の精神障害(18%)等が主要症状である.他にも低身長,血小板減少,けいれ
ん,斜視,気管支軟化症,側弯症,腎奇形,尿道下裂,鎖肛,鼠径ヘルニア等 180以上の臨床症状が報告されており,包括的な管理が必要である.

 先天性心疾患および免疫不全が生命予後に影響する.重篤な心疾患または重症免疫不全(極めてまれ)がなければ生命予後は良好.

 先天性心疾患では,円錐動脈幹部(心臓流出路)と大動脈弓の異常を特徴とする.ファロー四徴症(30%,主要体肺動脈側副血管合併例10%を含む),大動脈弓離
断(15%),心室中隔欠損(15%),総動脈幹遺残(10%).右大動脈弓,鎖骨下動脈起始異常の合併も多い.先天性心疾患における本症候群の占める頻度は,大動
脈弓離断(B型)では約60%,総動脈幹遺残では35%,ファロー四徴症では15%,主要大動脈肺動脈側副血管を合併したファロー四徴症では 55%である.心疾患の
重症度が本症候群の生命予後に大きく関与するため,早期に診断し心臓外科との連携により治療計画を立てることが重要である.

 成人期には,社会生活自立困難な例が多く,進学,就労に際して適切なサポートを要する.統合失調症や躁鬱病の発症率が一般より高く,精神科医による専門治
療が必要である.重症心疾患や精神障害を認めない例は,妊孕性を有する.この場合,次世代の再発危険率は50%で,適切な遺伝カウンセリングと育児に関する支
援が必要である.家族例では,母子例が 70~ 80%と父子例に比べて多い.男性例は,社会的に家族をもつことが困難であること,生殖適応度が低い可能性が考え
られる.
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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