心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫などの症状を軽減するためにもっとも有効な薬剤である.ループ利尿薬を基本に,ループ利尿薬
単独で十分な利尿が得られない場合にはサイアザイド系利尿薬との併用を試みてもよい.ただしこれらの利尿薬は低カリウム血症,低マグネシウム
血症をきたしやすく,ジギタリス中毒を誘発しやすいばかりでなく,重症心室不整脈を誘発することもある.したがってこれらの利尿薬の使用時には血
清カリウムおよびマグネシウムの保持を心がける.
ループ利尿薬は急性増悪期のうっ血解除の目的で汎用されてきた.慢性心不全例にあっても多くの場合長期投与がなされてきたのが現状であ
る.それにもかかわらず,慢性心不全におけるループ利尿薬のエビデンスはほとんど存在しない.この現象は,ループ利尿薬がEBMの時代が到来す
るより前に日常診療に浸透してしまった経緯による.一部のメタ解析の結果では心不全の予後改善に寄与するとの報告もあるが269),大規模臨床試
験のデータベースを用いた後ろ向きの解析結果では,フロセミドを中心とするループ利尿薬は生命予後悪化につながるとの結果であった270- 273).
その機序として,ループ利尿薬は低カリウム血症を惹起することにより,致死的心室不整脈やジギタリス中毒を伴うことや,交感神経,RAA系を活性
化するということ274)があげられる.長時間作用型ループ利尿薬であるアゾセミドは循環動態変動作用が緩徐で,神経体液性因子などへの影響が少
ないと考えられる.わが国で行われたフロセミドとの比較試験では,一次エンドポイントである心血管死あるいは心不全増悪による入院件数はアゾセ
ミド投与群のほうが少なかった275).
バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)は.髄質集合管にあるバソプレシンV2受容体を遮断することにより,純粋な水利尿作用を有する.
急性増悪期心不全例を対象としたプラセボとのランダム化比較試験(EVEREST)では,バソプレシンV2受容体拮抗薬はうっ血症状を改善するが,
長期予後は改善しないとの結果であった276, 277).バソプレシンV2受容体拮抗薬は急性増悪期から開始され,慢性期にも継続されるケースが増えつ
つある.入院中早期のバソプレシンV2受容体拮抗薬導入は腎機能悪化を予防するが,それが長期予後改善につながるかについてはいまだ明確で
はない278, 279).
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)