過去に行われた大規模臨床試験により,ビソプロロール,metoprolol succinate,α1受容体遮断作用を併せもつカルベジロールの生命予後改善効
果が明らかにされた48, 250- 252).個々のβ 遮断薬の効果を比較した試験は少ないが,COMET試験ではカルベジロールとメトプロロール酒石酸塩の効
果が比較され,カルベジロール群で死亡率が有意に低かった253)

 一方,心不全症状のない左室機能不全患者に対するβ遮断薬のエビデンスも得られている.CAPRICORNでは,LVEFの低下した心筋梗塞患者に
カルベジロールを投与し,死亡率が低下した204).したがって有症状の心不全患者のみならず,無症状の左室収縮機能低下患者においてもβ遮断薬
導入を試みることがすすめられる.

 わが国でもβ遮断薬の臨床試験が行われ,一定のエビデンスを得ている254, 255).β遮断薬の効果には用量反応性があるとされるが,β遮断薬投与
下の心拍数と予後との関係を検討した研究によれば,安静時心拍数75拍/分未満が至適なレベルであることが示されている256).これに対して,
わが国での観察研究では心臓死はカルベジロール高用量投与群に少なかったと報告されている257)

 β遮断薬の投与に際しては,NYHA心機能分類III度以上の心不全患者は原則として入院とし,体液貯留の兆候がなく,患者の状態が安定している
ことを確認したうえで,ごく少量より時間をかけて数日~2週間ごとに段階的に増量していくことが望ましい.β遮断薬の開始にあたっては,投与禁忌と
なる合併疾患がないことを確認する.血漿BNP濃度はその忍容性や有効性の指標となる258)

 カルベジロールを用いる場合は,初期用量を2.5 mg/日(分2)とし,重症例では1.25 mg/日とする.以後,3.75 または5 mg/日→7.5 mg/日→10
mg/日→15 mg/日→20 mg/日と増量する254)

 ビソプロロールの場合は,初期用量を0.625 mg/日とし,1.25 mg/日→2.5 mg/日→(3.75 mg/日)→5 mg/日と増量する(これらの増量はあくまでも
目安であり,個々の患者により異なる)259)

 増量に際しては自覚症状,脈拍,血圧,心胸比,および心エコー図による心内腔の大きさなどを参考にし,心不全の増悪,過度の低血圧や徐脈の
出現に注意する.ACE阻害薬と同様,欧米の臨床試験での目標用量とわが国の常用量とのあいだにかなりの開きがあり,心拍数をはじめとして薬剤
忍容性をみながら増量する.

 β遮断薬開始のタイミングは心不全急性増悪からの回復期で,入院中が望ましい260).初期用量を開始し,以後外来で増量する.また,β遮断薬治療
中に心不全増悪をきたした場合,強心薬を使用するときには,ホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase; PDE)阻害薬が望ましい.とくにカルベジ
ロール投与中の場合,ドブタミンの使用は血行動態を悪化させることが示されている261).β遮断薬はなるべく継続したほうが良いが,心不全の程度に
よってはβ遮断薬を中止せざるを得ない場合もある.病態が安定したら入院中には可能なかぎり再開する262)

 β遮断薬の効果を予測する指標として,さまざまな検討がなされてきたが,一定の見解は得られていない.最近はアドレナリン受容体シグナル伝達
に関わる遺伝子多型がレスポンダー予測に有用との報告がなされているが263, 264),わが国におけるコンセンサスは得られていない.なお,慢性心不
全における大規模試験のエビデンスのあるβ遮断薬はカルベジロール,ビソプロロール,metoprolol succinateであるが,このうちカルベジロールとビソ
プロロールがわが国では保険適用となっている.

 従来の大規模臨床試験では心房細動例を含む心不全例でその有用性が証明されてきた.しかし,最近になって心房細動例ではその効果を認めな
いとのメタ解析が報告された265).心房細動例ではβ遮断薬によって十分に心拍数がコントロールされなかったなどの理由が考えられるが,今後の検
討が必要である.その後,心房細動例でもβ 遮断薬の死亡率軽減効果は認められるとの報告もなされている266,267).洞調律では心拍数依存性に予
後改善効果があるが,心房細動患者ではそのような効果がないことも報告されている268).少なくとも,徐脈のないかぎり,心房細動例でβ遮断薬を控
える根拠はない.
1.1.4 β遮断薬
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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