心不全患者の血行動態は,治療や経過により容易に刻一刻と変化する.心エコー図は非侵襲的に血行動態を評価しえる手法であり,心不全診療
においては病態の変化にともない経時的に計測,評価を行う.
a. 右室収縮期圧(肺動脈収縮期圧)
三尖弁逆流血流速度より求められる収縮期右室・右房圧較差に,下大静脈径とその呼吸変動より推定した右房圧を加えることにより,右室収縮期
圧を推定できる.右室収縮期圧は肺動脈弁や肺動脈に狭窄がなければ,肺動脈収縮期圧と一致する.ただし,三尖弁が離解し,逆流速波形が層
流となった場合には推定は困難である.また,著明に右心機能が低下した症例では低心拍出状態のため肺動脈収縮期圧が中等度の上昇,
あるいは正常の場合もあることに留意する.
b. 右房圧
血管内容積の評価は心不全診療において重要である.右房から1~2 cmの部位で計測した下大静脈径,またその呼吸変化の有無により右房圧
を推定できる.
c. 心拍出量
一回拍出量は,断層像にて流出路断面積を算出し,パルスドプラ法を用いて求めた駆出血流速波形から一心拍あたりの時間速度積分値
(velocity-time integral; VTI)を求め,これらの積より得られる.ただし一回拍出量の精度は流出路径やドプラ法による駆出血流速波形の正確度に
左右される.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)