BNP NT-proBNP
分子量約3,500 約8,500
ホルモン活性+ -
交叉性proBNP
半減期約20分約120分
クリアランスNPR-C,NEP,腎臓腎臓
採血法EDTA加血漿血清/ヘパリン加・
EDTA加血漿
添付文書記載
基準値≦18.4 pg/mL ≦55 pg/mL
濃度増加因子* 心機能低下・腎機能低下・高齢・全身炎症
濃度低下因子* 肥満
ナトリウム利尿ペプチドにはANP,BNP,C型ナトリウム利尿ペプチド(C-type natriuretic peptide; CNP)がある.ANPは主として心房で,BNPは主
として心室で合成される心臓ホルモンである66- 68).ANPは心房の伸展刺激により,BNPは主として心室の負荷により分泌が亢進し,血中濃度が上
昇する.つまり,BNPは心室への負荷の程度を鋭敏に反映する生化学的マーカーとなる68- 71).CNPは神経ペプチドとして中枢神経系にも存在する
ほか,血管内皮細胞や単球・マクロファージでもその発現が確認され,血管壁ナトリウム利尿ペプチド系の主たるリガンドである.現時点ではCNPの
臨床応用はなされていない.
培養心筋細胞を,伸展刺激,カルシウム負荷,アンジオテンシンII,エンドセリン(endothelin; ET),白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor;
LIF),カルディオトロフィン,インターロイキン(interleukin; IL)-1 βなどで刺激するとBNP遺伝子発現は亢進する68, 72, 73).したがって,血漿BNP濃度
の上昇には,心筋の伸展刺激に加えて神経体液性因子による刺激も加わっていると考えるべきであろう.ANP,BNPは,ナトリウム利尿,血管拡
張,レニンやアルドステロン分泌抑制作用,さらに心臓では心筋肥大抑制作用や線維化抑制作用を有している.これらの働きは,アンジオテンシンII
やアルドステロンの作用とあらゆる部位で機能的に拮抗しており,ANP,BNPの心保護作用がうかがえる.
心不全では血漿ANP,BNP濃度が上昇するが,その理由として心臓での合成亢進に加えて,血中からのクリアランスが遅延していることがあげら
れる.ANP,BNPはクリアランス受容体(ナトリウム利尿ペプチド受容体[natriuretic peptide receptor; NPR-C])に結合した後に内部化によって分
解される場合と,中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase; NEP)によって分解される場合がある.代謝と病態との関係はまだ十分には解明
されていないが,腎機能低下によりクリアランスが低下する.腎機能低下による影響は,分子量の大きいBNP前駆体のN端側フラグメント,NT-
proBNPのほうがBNPより受けやすい(表13).なお,近年米国において新規の心不全治療薬LCZ696(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害
薬[angiotensin receptor neprilysin inhibitor; ARNI])が承認され,臨床応用され始めている74, 75).ARBの効果とNEPの1 つであるネプリライシン
を阻害し,内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を阻害してその濃度を上昇させるため,これらの濃度変化には薬剤使用の有無を考慮する必要があ
るかもしれない.
血漿ANP濃度やBNP濃度は血行動態とよく相関するが,BNPのほうが左室負荷をよく反映することから,心不全の補助診断法として感度,特異度
の双方でANPより優位である76).BNPが心不全の補助診断法としてとくに優れているのは,心不全の存在診断,心不全の重症度診断であるが,
心不全の予後診断にも有用である.BNP濃度(NTproBNPも含む)と予後の関係についての報告は枚挙に暇がない77- 82).急性および慢性心不全
の治療効果の判定マーカーとしても一定の有用性はあるが,この場合,個人内での変動を重要視すべきであり,他者との比較が難しい病態もある.
その理由は,BNP濃度(およびNT-proBNP濃度)は肥満などの影響を受けるために,もともと個人差が大きいからである.
日本心不全学会より「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」と題してステートメントが発信されている(図6)50).
このなかで,血漿BNP濃度のもっとも厳格な基準値としては18.4 pg/mLが使用されているが(NT-proBNPでは55 pg/mLに相当83)),国内で行われ
た多施設共同研究J-ABS 84)なども参考に,心不全に陥りやすい症例の血漿BNP濃度測定のカットオフ値として40 pg/mLを定めている(NT-proBNP
では125 pg/mLに相当50)).この値は,少し緩やかな値となっており,現実的で日常臨床に役立つであろう.本ステートメントでは,先に述べた如く,
BNPには個人差が存在するという注意点にも触れられている.とくに,肥満があるとBNP濃度は上昇しにくい傾向にあるので,心不全の程度を実際
より低く評価してしまう可能性があり,注意を要する.BNPの測定は,簡便,迅速,安価であるが,BNPだけで心不全を判断せず,常に全身状態や
他の検査も参考にすべきである.
* 濃度増加因子と低下因子に関しては,主なものだけを示している.
また,BNPとNT-proBNPのあいだで若干異なる可能性があるが,
今後の検討課題である.
図6 BNP,NT-proBNP 値の心不全診断へのカットオフ値
(日本心不全学会 50)より)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)