3.2レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
 心不全ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone; RAA)系が賦活化され,アンジオテンシンIIが過剰に産生さ
れる.軽度の心機能障害でも血漿レニン活性値が上昇している例がある.一方で,重症心不全でも上昇していない場合もある.SAVE試験におい
ても血漿レニン活性値,ノルアドレナリン,バソプレシン,心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide; ANP)は正常から高値まで
広い範囲にわたり,各神経体液性因子間には相関は認められなかった55).それにもかかわらず,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬
(angiotensin II receptor blocker; ARB)が心不全患者に効果的であることは,循環RAA系とは独立に組織RAA系が賦活化しており,心臓のリモデ
リングに関与していることを示唆している56- 58).しかし,現時点では組織RAA系を評価する臨床的手法はない.

 一方,心不全において血中のアルドステロン濃度は必ずしも高値を示すわけではなく,それゆえに心不全の重症度の鋭敏なマーカーとはいいがた
い面がある.しかしながら,心不全におけるアルドステロンの分泌や作用に関しては不明な点が数多く残されており,ミネラルコルチコイド受容体の活
性化を含めてアルドステロン/ミネラルコルチコイド受容体カスケードの意義を過少評価してはならない59- 61).高血圧診療ではレニン活性とアルドステ
ロン濃度測定が強く推奨されており,心不全においてもそれらの測定は心不全の原因ならびに病態の深い理解につながると思われる.

 アルドステロンに関連して,心筋線維化の指標としてI型,III型プロコラーゲン濃度62- 65)などの有用性も報告されているが,心不全のバイオマーカー
としての意義についてはさらなる検討を要する.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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