内頚静脈
垂直距離
3 cm以上で
静脈圧上昇
内頚静脈拍動の
頂点
胸骨角
2.2身体所見
 聴診所見においてはIII音によるギャロップ(奔馬調律),すなわち拡張早期性ギャロップが特徴的である.原因疾患の病態を反映してI音やII音の異
常,心房性ギャロップ(IV音),それに収縮期雑音あるいは拡張期雑音などが聴取される.肺の聴診では,軽症では座位にて吸気時に下肺野の
水泡音(coarse crackles)を聴取し,心不全の進展に伴い肺野全体で聴取される.急性肺水腫に陥ると頚静脈怒張,チアノーゼや冷汗を伴う喘鳴,
ラ音を伴う起座呼吸,ピンク色・血性泡沫状喀痰を認める.心原性ショックでは収縮期血圧90 mmHg未満,もしくは通常血圧より30 mmHg以上の低
下がみられ,意識障害,乏尿,四肢冷感,チアノーゼがみられる.低心拍出量を反映して末梢循環不全が著明な患者ほど四肢は冷たく湿潤し,
血色が悪く,蒼白で,口唇や爪床にチアノーゼを認める.尿量の減少,チェーン・ストークス呼吸や意識障害を伴うこともある.脈拍は微弱で頻脈とな
り,しばしば交互脈や上室および心室不整脈,頻脈性および徐脈性不整脈による脈拍異常を認める.脈拍を触れず,失神や痙攣,あるいは意識消
失を伴っていれば心停止(心室細動,無脈性心室頻拍,心静止,無脈性電気活動)である.体静脈のうっ血により頚静脈怒張,下腿の浮腫,肝腫
大,肝頚静脈逆流を認める.心不全患者は座位や臥位で休んでいることが多いため,皮下浮腫ははじめ臀部や背部を中心にみられるが,さらに進
行すると上肢や顔面にまで及ぶ.心不全により惹起される浮腫は,肝性浮腫,貧血,腎性浮腫などと鑑別する必要がある.心臓性浮腫は呼吸困難
などの左心不全症状を伴うことが多い.浮腫に伴う体重増加は通常数kgに達し,3日以内に2 kg以上の体重増加を認める場合には利尿薬の増量が
必要と考えられる.診察で静脈圧を推定するには,上半身を45度拳上した状態で,胸骨角から内頚静脈拍動(頭側)の頂点までの垂直距離を計測
する(図5).胸骨角は右房から約5 cm上方にあり,胸骨角から内頚静脈拍動までの垂直距離が3cm以上あれば静脈圧は上昇していると考える.
急性心不全患者における症状・身体所見の診断精度も報告されている.症状・身体所見の感度は十分ではないが特異度は高い.また感度は症状
のほうが優れているが,特異度は身体所見のほうがまさっている52)
図5 静脈圧の推定法
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)