うっ血による自覚症状と身体所見
左心不全
自覚症状呼吸困難,息切れ,頻呼吸,起座呼吸
身体所見水泡音,喘鳴,ピンク色泡沫状痰,III音
やIV音の聴取
右心不全
自覚症状右季肋部痛,食思不振,腹満感,心窩部
不快感
身体所見
肝腫大,肝胆道系酵素の上昇,頚静脈怒
張,右心不全が高度なときは肺うっ血所
見が乏しい
低心拍出量による自覚症状と身体所見
自覚症状意識障害,不穏,記銘力低下
身体所見冷汗,四肢冷感,チアノーゼ,低血圧,
乏尿,身の置き場がない様相
大基準大または小基準小基準
発作性夜間呼吸困難
治療に反応して5
日間で4.5 kg以上
の体重減少
(これが心不全治療
による効果なら大
基準1 つ,それ以
外ならば小基準1
つとみなす)
下腿浮腫
頚静脈怒張夜間咳嗽
肺ラ音労作性呼吸困難
胸部X線での心拡大肝腫大
急性肺水腫胸水貯留
拡張早期性ギャロップ
(III音)
肺活量減少
(最大量の1/3
以下)
中心静脈圧上昇
(>16 cmH2O)
頻脈
(≧120 拍/分)
循環時間延長
(25秒以上)
肝・頚静脈逆流
(剖検での肺水腫,内
臓うっ血や心拡大)
2.症状・身体所見
 急性心不全を呈すると,左室拡張末期圧や左房圧の上昇に伴う肺静脈のうっ血,および/または右房圧の上昇に伴う体静脈のうっ血,さらには心
拍出量減少に伴う症状が認められる.フラミンガム研究における心不全の診断基準は左心不全,右心不全,低心拍出の症状・所見が混在したもの
であり(表10)51),これらを分けて考えることが患者の病態把握に有用である(表11).両心不全の患者においては左心不全の症状・所見および右
心不全の症状・所見の両者を呈する.

 心不全の自覚症状から重症度を示す分類にはNYHA心機能分類がある.NYHA心機能分類は症状に応じてI度からIV度に分類しており,一方,
ACCF/AHAのガイドラインでは7),心不全のリスクはあるが症状がない状態(ステージA)から,安静時にも症状がある治療抵抗性の状態
(ステージD)までステージ分類をしている(II. 総論 1. 定義・分類 表8 7) [p. 13]および本章8.1 NYHA心機能分類[p.30]参照).両者の概念
は厳密には異なるものであるが,おおむね表8 7)のように対応する.
心不全ステージ分類NYHA 心機能分類
A 器質的心疾患の
ない
リスクステージ
該当なし
B 器質的心疾患の
ある
リスクステージ
該当なし
C 心不全ステージ
I 心疾患はあるが身体活動に制限はない.
日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,
呼吸困難あるいは狭心痛を生じない.
II 軽度ないし中等度の身体活動の制限があ
る.安静時には無症状.
日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困
難あるいは狭心痛を生じる.
III 高度な身体活動の制限がある.安静時に
は無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動
悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
IV 心疾患のためいかなる身体活動も制限さ
れる.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在す
る.わずかな労作でこれらの症状は増悪
する.
D 治療抵抗性
心不全ステージ
III 高度な身体活動の制限がある.安静時に
は無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動
悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
IV 心疾患のためいかなる身体活動も制限さ
れる.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在す
る.わずかな労作でこれらの症状は増悪
する.
表8 心不全ステージ分類とNYHA 心機能分類の対比
NYHA心機能分類とはニューヨーク心臓協会(New York Heart
Association)が作成し,身体活動による自覚症状の程度により心疾
患の重症度を分類したもので,心不全における重症度分類として広く
用いられている.II度はさらにIIs度:身体活動に軽度制限のある場合,
IIm度:身体活動に中等度制限のある場合に分類される.
(Yancy CW, et al. 2013 7)より改変)
表10 フラミンガム研究における心不全の診断基準
2つ以上の大基準,もしくは1つの大基準と2つ以上の小基準を満た
す場合に心不全と診断する.
(Mckee PA, et al. 1971 51) より改変)
表11 心不全の自覚症状,身体所見
2.1自覚症状 2.2身体所見
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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