1) SERVE-HF 試験の被験者と同じ状態の患者(中枢型優位の睡眠時無呼吸を伴い安定状態にある左室収縮機能低下[左室駆出率≦ 45%]
に基づく心不全患者)へのASV
これらの患者に対するASV の導入・継続は禁忌ではないが,慎重を期する必要がある.実臨床においては,わが国のガイドライン1, 2) に明示
されているように,まずCPAP の導入を検討し,CPAP では睡眠時無呼吸の改善が不十分な場合やCPAP に忍容性がない場合に,ASV 導入
を考慮することが望ましい.ASV 継続中も,経過を慎重に観察しCPAP へ変更可能と判断される症例ではCPAP への変更を考慮する.いず
れにしても,わが国のガイドラインのみならずこれまでの複数の小規模臨床試験3) とSERVE-HF 試験4),SAVIOR-C 試験5) の結果や欧米で
のガイドライン,行政機関による使用規制の状況を対象患者およびその家族に説明し同意を得たうえでの導入および継続が必須である.
2) 上記1)に該当しないが睡眠時無呼吸を有する心不全患者(閉塞型優位の睡眠時無呼吸を伴う心不全患者,睡眠時無呼吸を有する左室収
縮能の保持された心不全患者[LVEF > 45%]など)へのASV
現在のところ,これらの患者へのASV の導入・継続を制限する理由はない.ただし安全性を考慮して,導入・継続後の経過を慎重に観察する必要
がある.導入に際してはCPAP で治療可能か検討したうえで必要症例に限ってASV を導入することが望ましい(保険適応に関しては,個別に考慮
する必要がある).
3) 睡眠時無呼吸の有無と関係なく高度のうっ血に対してASV が使用され奏効した心不全患者へのASV
心不全による入院中に,通常の内科治療を行っても高度のうっ血があるため睡眠時無呼吸の有無と関係なくASV が使用され,奏功した心不
全患者のうち,ASV の中止により心不全の悪化が予想される患者では,ASV を継続使用してもよい.ただし,経過中,臨床的に心不全が安
定化していると判断された時点で,またはASV 導入後6ヵ月が経過した時点で必ずASV からの離脱やASV 以外の治療へ変更可能か再検討
する必要がある.この際,可及的に睡眠時無呼吸の有無を評価し,睡眠時無呼吸を合併する症例に関しては上記1,2)に従うものとする.
4) 上記1-3)以外の患者へのASV
上記1-3)以外でのASV の使用に関しては,その是非を含め今回のステートメントの範疇に含まない.
5) 臨床研究におけるASV
SERVE-HF 試験の被験者と同じ状態の患者であっても,各施設の倫理規定に基づいて行われる臨床研究においてASV の使用は制限されな
い.しかしながら,臨床研究以外での使用状況や,これまでの複数の小規模臨床試験とSERVE-HF 試験,SAVIOR-C 試験の結果が,被験者
またはその家族に説明がなされたうえで同意が得られていることが必要である.また,すでに進行中のASV を使用する臨床研究においては
SERVE-HF 試験の結果を安全性に関するあらたな情報として各施設の該当部署へ報告する必要がある.
6) その他の注意事項
1-5)の記述に関してSERVE-HF 試験やその他の研究からあらたな情報が明らかになった場合は適宜修正,加筆が行われるものとする.
a. OSA に対する陽圧呼吸療法(表45)
OSAについては心不全の有無にかかわらず持続的陽圧呼吸(持続的気道陽圧法)(CPAP)を中心とした治療法がほぼ確立している664).
心不全患者については比較的少数例の重症OSAを合併したLVEFの低下した心不全患者を対象としたランダム化比較試験によりLVEFの改善が報
告されており677),メタ解析においても同様の効果が確認されている678).中等度以上のOSAをCPAPで治療することにより心不全の予後改善につなが
るとの観察研究の結果もあるが679, 680),心不全患者にかかわらず多数の患者を対象としてCPAPによる心血管疾患の一次予防,二次予防効果を評
価したランダム化比較試験はいずれもネガティブな結果に終わっており681, 682),ましてOSA合併心不全患者を対象としたCPAPの予後改善効果につ
いての大規模臨床試験はこれまで行われていない.現在,中等度以上のOSAもしくはCSR-CSAを合併したLVEFが45%未満の心不全患者860人を
対象としたASVの多施設共同ランダム化臨床試験ADVENT-HF 683)が進行中で,その結果が待たれる.
現時点では,日中の眠気などOSAに関連する症状がある場合,つまりOSASの場合,心不全の有無にかかわらず既存のSDB診療のガイドラインに
従って治療されるべきであり,また中等度以上のOSAを有するLVEFの低下した心不全患者に対しては,LVEFの改善を目的としてCPAP治療を考慮
すべきである.
b. CSR-CSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸療法(表46)
心不全に合併するCSR-CSAに対する陽圧呼吸療法の指針も確立されていない.心不全治療を徹底したあとにもCSR-CSAが残存する症例は多く,
このような場合に陽圧呼吸が考慮される.陽圧呼吸療法がCSR-CSAの減少に有効であると想定される機序は,SDBに対する直接作用に加えて気道
陽圧により前負荷,後負荷を軽減して心仕事量を軽減し,左心機能の改善をもたらすことである.さらに肺を拡張させて反射性に交感神経活性を抑制
し,CO2に対する感受性を低下させる機序や,呼気終末残気量を増加させて低酸素血症を改善させる機序が想定される.しかしながら,CSR-CSAを
伴う心不全患者の予後に対するCPAPの効果を検証した大規模多施設臨床試験CANPAP 684)では,対照群に比較してCPAP群でAHIが半減し,
LVEFの増加,6分間歩行距離の短期的な改善が得られたものの,生命予後の改善効果は証明されなかった.そのため,CSR-CSAが優位な心不全
患者に対してルーチンにCPAPで治療することは推奨できないとの結論となった.しかしながら,CANPAPの追加解析では,CPAP開始3ヵ月後の再検
査時にCPAP 使用下でAHI <15 に改善した群(CPAPresponder)は,しなかった群より予後良好であり,そのようなCPAP responderの予後は対照
群とくらべ有意に良好であることが示されている685).
CSR-CSAをCPAPよりもさらに有効に治療できる陽圧治療機器であるASVについては,CSR-CSAを合併したLVEFの低下した心不全患者のLVEF
や運動耐容能が改善し,BNPが低下するというランダム化比較試験やメタ解析の結果が発表され686- 689),さらには予後も改善するとの少数例の前向
き観察試験の結果も報告されていたが690),AHI≧15のCSA優位の睡眠呼吸障害を合併するLVEF≦45%の慢性心不全患者1,325人についてASV
の予後改善効果を検討したランダム化大規模臨床試験SERVE-HF 427)では,予想に反して一次エンドポイントである総死亡,救命的心血管介入
(心移植,左心補助装置[left ventricular assist device; LVAD]植込み,心停止からの蘇生, ICD適切作動),心不全による予期せぬ入院はASV群
で対照群と比較して有意に改善せず,総死亡と心血管死亡はむしろ有意に増加するという結果に終わり,2016年ESCガイドラインおよび2017年
ACC/AHA/HFSAガイドラインの改訂において,クラスIII,CSA主体のLVEF≦45%の慢性心不全患者に対してASV 使用は推奨されない
(“not recommended”)という位置づけとなった8, 14).しかし,SERVE-HFという1つのランダム化臨床試験の結果のみでASVの評価を決定付けること
は早計であるという考えも根強くあり,前述のASVのもう1 つの大規模臨床試験ADVENT-HF 683)の結果が待たれるところである.わが国では一定の
制限のもとにASVを使用することは保険で認められており,日本循環器学会および日本心不全学会では2016年11月に保険適用も考慮した適正使用
のためのステートメント(第2報)を発表している(付表1)426).
12.2.3 心不全に合併するSDB に対する陽圧呼吸療法
表45 心不全に合併するOSA に対する治療の推奨と
エビデンスレベル
*中等度はAHI≧15 と定義されることが一般的であるが,わが国の
保険適用レベルはAHI≧20である.
表46 CSR-CSA 合併心不全患者に対する治療の推奨と
エビデンスレベル
付表1 日本循環器学会および日本心不全学会によるASV の適正使用に関するステートメント(第2 報)
1) 日本循環器学会.Circ J 2010; 74 (suppl. II): 963-1051.
2)NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2 版.南江堂 2015.
3) Aurora RN. et al. J Clin Sleep Med 2016; 12: 757-761.
4) Cowie MR, et al. N Engl J Med 2015; 373: 1095-1105.
5) Momomura S, et al. Circ J 2015; 79: 981-990.
(日本循環器学会 426)より)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)