ACE阻害薬やARBは,CKD症例において糸球体内圧の上昇を抑制することで蛋白尿を減少させ,腎障害の進行を抑える腎保護作用を有している.
また,心不全症例におけるACE阻害薬とARBの有効性も確立されている.
CKD合併心不全症例のエビデンスは少ないものの,大規模臨床研究のサブ解析などいくつかみられる.
CONSENSUS 236)では血清クレアチニン値 3.4 mg/dL以上を除外しているが,対象症例の平均血清クレアチニン値は1.4 mg/dLであり,平均eGFRも
およそ45 mL/分/1.73m2と多くのCKD症例を含んでいる.血清クレアチニン値の平均値の上下で2群に分けて検討したサブ解析によると,エナラプリルの
効果は血清クレアチニン高値例でも低値例と同等であった.血清クレアチニン値2.4 mg/dL以上もしくはクレアチニンクリアランス30 mL/分未満のCKDス
テージ4~5にあたる心不全患者を対象にした研究においても,RA系抑制薬の投与で有意に予後が改善した621).また,β 遮断薬を内服している透析症
例において,RA系抑制薬内服群では非内服群に比して予後が改善したとの報告がある620).ACE阻害薬やARBは,CKDステージ4~5の症例や高齢者
CKD症例では,まれに投与開始時に急速に腎機能が悪化したり,高カリウム血症に陥ったりする危険性があるため,初期量は少量から開始する622).開
始後は1週間以内に血清クレアチニン値を測定し,1)前値とくらべて30%以上の上昇,2)クレアチニン値が2.0 mg/dL未満の症例では 0.5 mg/dL以上の
上昇,3)血清クレアチニン値が2.0 mg/dL以上の症例では1.0 mg/dL以上の上昇がないかを確認する.血清カリウム値の上昇にも合わせて注意を要す
る.上記以上の上昇が認められたときには,減量して再度血清クレアチニン値を1週間以内に測定する.ACE阻害薬を使用するときには腎代謝の薬剤よ
り肝代謝の薬剤のほうが使いやすく,ARBはすべてが肝代謝である.透析症例では,腎代謝性ACE阻害薬は透析性を確かめる必要がある.
ARBは透析でほとんど除去されないが,肝代謝なので用量を調節することなく使用することができる.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)