慢性の虚血性心不全の加療は基本的に他の心不全と同様であり,心機能(心保護)および心筋虚血の評価,不整脈イベントの予防,冠危険因子の
管理が中心となる.LVEFの低下した虚血性心不全症例における心保護に関しては,他のLVEFの低下した心不全と同様にβ遮断薬とレニン・アンジオ
テンシン系阻害薬(ACE阻害薬,ARB,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA])が中心となる48, 250, 251, 253, 315, 545, 546)(表36).しかし,
投与にあたっては心不全増悪を配慮して少量より開始する.また,冠攣縮性狭心症合併例では,増悪もありうるため,β遮断薬の単剤使用には十分な
注意が必要である547).
硝酸薬は,長期予後改善効果については明らかではないが284),心不全の症状や血行動態の改善効果が示されており548),狭心症治療薬としては第
一に選択される薬剤である.長時間作用型のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は,顕性心不全患者の長期予後改善の効果は示されていないもの
の悪影響はないと考えられ,硝酸薬とともに狭心症治療薬として用いられる.わが国では,長期の心不全予防にも効果が期待されている547, 549).
これらの薬剤で狭心症に対する効果が不十分な場合には,ニコランジルの併用も行われる.うっ血症状のある症例では利尿薬を投与する.
強心薬については心拍数の増加に伴う狭心症や心筋虚血の増悪,あるいは不整脈の誘発が危惧され,冠動脈疾患合併心不全例では使用上注意を
要する.非薬物治療に関しては,冠動脈疾患を合併した心不全症例における狭心症治療・血行再建の効果について確立されたエビデンスは存在しな
い.しかし,血行再建による心機能の回復効果は十分に期待されるため550, 551),狭心症症状を有する症例や,虚血が心機能低下の原因と証明された
症例では,PCIまたはCABGの適応を考慮する552, 553).なお,PCIとCABGの成績の優劣に関しては議論が多いが,重症冠動脈疾患を有する心不全症
例においてはCABGの成績が優れることがわが国のコホート研究で示唆されている554).
致死性不整脈に関しては,心筋梗塞に伴う心室期外収縮,非持続性心室頻拍は致死性不整脈のトリガーとなり突然死を惹起する可能性が高い555).
わが国の報告でもLVEFの低い症候性慢性心不全の突然死の頻度は高いとされている39).日本循環器学会の不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011
年改訂版)では,NYHA心機能分類II度以上かつLVEFが35%以下の虚血性心疾患症例における一次予防目的のICD植込みはクラスIあるいはIIaとし
て推奨されているが555),実際に一次予防目的にICD植込みが行われた頻度はクラスI症例で30%,クラスIIa症例で7%と低いことがCHART研究で報告
されている358).冠危険因子の管理ならびに運動療法については他項(IX.併存症の病態と治療 6. 高血圧[p. 63]~9. 高尿酸血症・痛風,VII. 非
薬物治療 4. 運動療法[p. 50])を参照されたい.本ガイドラインに記載されていない脂質異常症・喫煙の管理に関しては,他のガイドラインに準じる.
脂質異常症に関しては,血清中のLDLコレステロール値100 mg/dL未満,高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値40 mg/dL以上,中性脂肪値150
mg/dL未満を管理目標にヒドロキシメチルグリタリル・コエンザイム(hydroxymethylglutarylcoenzymeA; HMG-CoA)還元酵素阻害薬であるスタチン
を中心とした薬物療法および生活指導を行う.また厳格な禁煙指導も行う.
表36 冠動脈疾患を合併した心不全に対する薬物治療の推奨とエビデンスレベル
*心筋梗塞責任血管の再灌流療法に成功し,左心機能が正常かほぼ正常
で,重篤な心室不整脈のないもの
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)