カテコラミンはアドレナリン受容体(α1,α2,β1,β2)と結合して種々の生理作用を示す.心筋に存在するβ受容体の大部分はβ1受容体であり,
心筋収縮増強作用(陽性変力作用[positive inotropic effect]),心筋弛緩速度増加(変弛緩作用[lusitropic effect]),心拍数増加(変時作用
[chronotropic effect]),刺激伝導速度増加(変伝作用[dromotropic effect])を発揮する.一方,血管平滑筋に存在するβ2受容体刺激は末梢血管拡張
作用を示す.主に血管平滑筋に存在するα1受容体刺激は血管収縮を示し,心筋α1受容体刺激では軽度の収縮力の増強を示す.
a. ドブタミン
ドブタミンは合成カテコラミン薬であり,β1,β2,α1受容体刺激作用を有する.血管平滑筋に対するα1とβ2作用が相殺され,β1受容体刺激作用を発揮す
る.β2受容体刺激作用については,5 μg/kg/分以下の低用量では軽度の血管拡張作用による全身末梢血管抵抗低下および肺毛細管圧の低下をもたら
す.また,10 μg/kg/分以下では心拍数の上昇も軽度であり,他のカテコラミン薬にくらべ心筋酸素消費量の増加も少なく,虚血性心疾患にも使用しやす
い.わが国ではドパミン,ドブタミンの開発当初に急性心筋梗塞に伴う心ポンプ失調患者を対象に多施設共同ランダム化およびクロスオーバー比較試験が
行われ,ドブタミンはドパミンにくらべ肺動脈拡張期圧を低下し,肺うっ血の軽減にも有効であることが示されている742).しかし,血圧維持が不十分の場合
にはドパミンまたはノルアドレナリンとの併用の検討が必要である.なお,カルベジロール内服中の患者に対して用いた場合には,心拍出量増加効果が
減弱し,血行動態に与える影響が変化している可能性が報告されており,注意が必要である261).また,ドブタミン投与により心筋および血中の好酸球が
増加することがある743). 中止に際しては,急激な減量や中止は血行動態の悪化をもたらすため,段階的な減量が必要である.ドブタミン投与による長期予
後への影響については,FIRST試験のサブ解析によって心事故発生率を高める可能性が示されており744),必要最少量および最短期間での使用にとどめ
るのが望ましい.
b. ドパミン
ドパミンは内因性カテコラミンであり,ノルアドレナリンの前駆物質である.低用量(2 μg/kg/分以下)ではドパミンシナプス後(DA1)受容体を刺激し,
腎動脈拡張作用による糸球体濾過量の増加と腎尿細管への直接作用により利尿効果を示し,中等度の用量(2~10 μg/kg/分)ではβ1受容体刺激作用と
心臓および末梢血管からのノルアドレナリン放出増加により陽性変力作用,心拍数増加,α1受容体刺激による血管収縮作用を示し,高用量(10~20 μ
g/kg/分)ではα1刺激作用が優位となり血管抵抗が上昇することが,健常人や動物実験のデータで示されている.
心不全患者における低用量ドパミンの腎臓への効果に関しては,少量のフロセミドと併せて使用することでの腎保護効果の可能性を示す報告などがあ
るが745),ROSE試験などの複数のランダム化試験では尿量増加効果や腎保護効果などの有用性は示されていない746- 748).また, ROSE試験のサブグ
ループ解析では,EF>50%でむしろドパミンの使用によって尿量反応性の悪くなる可能性も示されており, 病態に応じた選択にも十分注意を払う必要が
ある.
c. ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは内因性カテコラミンであり,β1刺激作用により陽性変力作用と陽性変時作用を示し,末梢のα受容体にも働いて強力な末梢血管収縮
作用を示す.他の強心薬の使用ならびに循環血液量の補正によっても心原性ショックからの離脱が困難な患者に0.03~0.3 μg/kg/分の持続点滴静注で
開始する.敗血症性ショックを合併している患者はよい適応である.末梢血管抵抗の増加により平均動脈圧は増加するが,後負荷の増大や心筋酸素消費
量の増加をきたし,腎,脳,内臓の血流量も減少させるので強心薬としての単独の使用は控え, できるだけ少量を短期間用いることを心掛けなくてはなら
ない.大量に用いなくてはならない患者では,早急にIABPや経皮的心肺補助装置(PCPS)などによる機械的な補助循環に切り替え,ノルアドレナリンの
使用量を減らす.肺うっ血と同時に収縮期血圧が70 mmHg未満の患者では,ドパミンとノルアドレナリンを併用,もしくはドブタミンとノルアドレナリンの併
用を行い,さらに必要に応じてIABPやPCPSなどによる機械的な補助循環を行う.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)