血中ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(human atrial natriuretic peptide; hANP)濃度は心不全早期より上昇し,心房圧上昇に伴い心房筋より分泌さ
れる.カルペリチド(遺伝子組み換えhANP)は,1993年にわが国で開発されたナトリウム利尿ペプチドファミリーの1つで,1995年より臨床使用されてい
る.本薬は血管拡張作用,ナトリウム利尿効果,レニンやアルドステロン合成抑制作用などにより減負荷効果を発現し,肺うっ血患者への適応とともに,
難治性心不全に対してカテコラミンなどの強心薬と併用される.

 わが国における急性心不全を対象としたカルペリチドのランダム化比較試験では,18ヵ月間の経過観察期間における死亡あるいは再入院件数はカルペ
リチド投与群に少なかった736).心筋梗塞急性期におけるカルペリチド投与は,梗塞サイズを有意に縮小し再灌流傷害も低下させた.さらに6~12ヵ月後の
LVEFを有意に上昇させ,心臓死および心不全入院についてはプラセボ群にくらべ有意に低下した533).冠動脈バイパス術(CABG)を施行する左室機能
不全患者を対象としたカルペリチドのランダム化比較試験では,2~8年後の心臓死ならびに心イベント発生が有意に低下した737).しかしながら急性心不
全患者を対象とした後ろ向き研究においては,カルペリチド投与が院内死亡率の上昇と関連があると報告されており,とくに高齢者でより有害であった
738).さらに,Diagnosis Procedure Combination(DPC)データを利用した検討においても,重症例への投与が多く,予後改善効果・医療コスト軽減効果
は明らかでなかった739).以上より,急性心不全におけるカルペリチド投与については,他の血管拡張薬と同様,予後改善効果は確立されておらず,今後
有効な患者の選択が重要であると考えられる.

カルペリチドの副作用として投与初期に血圧の低下を生じることがあるので,投与開始の際には低用量(0.025~0.05 μg/kg/分[場合により0.0125
μg/kg/分])から持続静脈内投与する.約3,800人を対象としたわが国の実臨床における前向き調査では,0.05~0.1 μg/kg/分の投与量で使用されてい
ることが多く(最大0.2 μg/kg/分まで使用可能),有効性は82%と報告されている740).とくに心筋症,高血圧性心疾患,弁膜症などによる非代償性心不
全患者では有効性が高い.これに対して重篤な低血圧,心原性ショック,急性右室梗塞患者,脱水症では禁忌である.
4.3.3 カルペリチド
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)