トルバプタンは,アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin; AVP)タイプ2受容体を阻害する経口薬である.わが国では,他の利尿薬に対し抵抗
性の認められる心不全症例において使用が認められている.AVP分泌亢進は腎臓集合管における水の再吸収を亢進して口渇感を増し,著明な低ナト
リウム血症の原因となる.低ナトリウム血症は心不全患者における重要な予後規定因子の1つであり,これを抑制するAVP拮抗薬は難治性心不全,
とくに低ナトリウム性心不全患者がよい対象と考えられている.EVEREST試験とわが国における多施設共同非盲検ランダム化比較試験では,
短期的には自覚症状や体重を改善したが276, 632),投与後の生命予後を改善するには至らなかった277,727) .近年行われたTACTICS-HF試験,
SECRET-CHF試験においても体液貯留改善効果は認められたものの,症状軽減効果は限定的であった728,729). よって,利尿薬抵抗性のため強い
うっ血症状を呈する心不全患者の体液管理には有効と考えられるが,必要最小限の投与にとどめるべきである.小規模研究では,腎機能を悪化させな
い可能性278, 730- 732),心係数を低下させずに右房圧を下げる可能性732),レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化されにくい可能性279)
が指摘されており,今後,効果,使用法についてさらなる検討が必要である.副作用として,口渇感とそれに伴う高ナトリウム血症に注意する.
4.2.2 バソプレシンV2受容体拮抗薬(AVP 拮抗薬)
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)