a. フロセミド
ループ利尿薬は肺うっ血や浮腫などの心不全症状を軽減し,前負荷を減じて左室拡張末期圧を低下する.急性心不全患者において,その効果は即
効性である721).2013年に改訂されたACC/AHA心不全診療ガイドライン7),2016年に改訂されたESC心不全治療ガイドライン16)においても,症候性左
室収縮性心不全に対し利尿薬の投与が推奨されている.わが国における多施設コホートによる観察研究では,救急搬送から60分未満にフロセミドが投
与された早期治療症例は他の交絡因子に独立して院内死亡率が低値であったことから,できるだけうっ血時間を短くし,早期に治療することが重要と考
えられる722).
とくに,重症心不全患者は腎機能障害を合併していることも少なからずあるが,腎機能障害例ではフロセミドの尿細管分泌が低下し,用量・反応曲線
が右方偏位している.治療には通常より高用量を必要とする723).1回静注投与で満足な利尿効果が得られない場合には,むしろ持続静注のほうが有
効な場合もある.持続静注投与の場合には反応性ナトリウム貯留を抑え,結果的に前者に勝る利尿効果が得られることもある724).
しかし,72時間の急性期で評価をしているDOSE試験725)において,ループ利尿薬の高用量静脈内投与は低用量に比し血清クレアチニンが0.3
mg/dLより大きく増加した患者の割合が多かったが,血清クレアチニンの変化に有意な群間差は認めなかった.体液の減少,体重の減少,呼吸困難の
改善に差を認めたが,主要評価項目の症状全般の改善においては,統計学的な差には至らず,二次エンドポイントながら入院日数,入院期間を除く生
存日数にも差はなかった.よって,ループ利尿薬の投与量は必要最小限とすべきである.また,ボーラス投与群と持続点滴群の比較でも同様に呼吸困
難改善の程度,クレアチニン値の変化,入院日数,入院期間について有意な群間差がなかったことより,いずれの投与法であっても予後改善効果は認
められず,投与法についても症例に合わせて最適な方法をとるべきと考えられる.また,LVEFの違いによって体液貯留のパターンが異なり,除水によ
る腎機能への影響も異なる可能性が報告されており726),病態に合わせた投与量の検討も必要である.
ループ利尿薬による急激かつ過度の利尿は骨格筋の痙攣を惹起する.カリウムの補充をしながら対応する.また,低血圧(収縮期血圧90 mmHg未
満),低ナトリウム血症,低アルブミン血症,アシドーシスを合併している患者では反応が不良となる.ループ利尿薬による利尿効果減弱の場合には,
作用部位の異なる利尿薬との併用(ループ系とサイアザイド,あるいはスピロノラクトン)が有効な場合がある.ただし,電解質異常,血中尿素窒素の上
昇をきたす頻度が高いので注意を要する.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)