心不全の存在および重症度診断に,いまなお胸部単純X線写真は有用である(表14).なかでも左心不全における肺うっ血像が重要であり,その重症度
も判断できる(図7).すなわち,軽度(肺静脈圧15~20 mmHg)では肺尖部への血流再分布所見(cephalization:角出し像)を認める.間質性肺水腫
(肺静脈圧20~30 mmHg)になると,肺気管周囲(peribronchial)や肺血管周囲(perivascular)の浮腫(cuffing sign)やカーリー(Kerley’s) A,B,C線が
出現する.さらに進行すると,肺胞性肺水腫(肺静脈圧30mmHg以上)となり蝶形像(butterfly shadow)がみられる.胸水貯留は両心不全で多く,右心単
独不全では少ない93).また,胸水や肺水腫は右側により多くみられる94).縦隔陰影としては,左房拡大,右室拡大,肺動脈陰影拡大が観察されるが,
心エコー図の診断能を上回るものではない.
①cephalization(角出し像)
肺尖部への血流の再分布所見(肺静脈圧15~20 mmHg)
②perivascular cuffing(肺血管周囲の浮腫)
③Kerley’s B line(カーリーB線)
④Kerley’s A line(カーリーA線)
⑤Kerley’s C line(カーリーC線)
⑥peribronchial cuffing(気管支周囲の浮腫)
②-⑥:間質性肺水腫所見(肺静脈圧20~30 mmHg)
⑦vanishing tumor(一過性腫瘤状陰影)
胸水
⑧butterfly shadow(蝶形像)
肺胞性肺水腫所見(肺静脈30 mmHg以上)
⑨⑩costophrenic angle(肋骨横隔膜角) の鈍化
胸水
⑪上大静脈の突出
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)