左室形成術は1980年代に左室瘤に対する手術として始まり,左室瘤を切除すれば,心収縮期に瘤の拡張のために失われていた心拍出量が有効な心
拍出となることにより,心機能,症状の改善が示された.一方,心筋梗塞に対する再灌流療法がすみやかに行われるようになるに従い,貫璧性梗塞に起
因する左室瘤症例は減少し,再灌流療法後の広範囲な心内膜下梗塞による壁運動消失(akinesis)を伴った虚血性心筋症症例が増加した.Dorらは,
これらakinesisを伴った虚血性心筋症に対しても左室形成術が長期予後を改善することを示し492),以来さまざまな術式の工夫がなされてきた.この左室形
成術の単独冠動脈バイパス術(CABG)に対する付加効果を調べたランダム化比較試験であるSTICH試験の結果が2009年 に発表された493).これによる
とLVEF 35%以下の虚血性心筋症に対し,CABGに左室形成術を付加しても,運動耐容能,症状,生命予後すべてに関して有意な付加効果はないという
予想外の結果が示された.この結果に対して多くの反論が発表されているが,外科的に左室を縮小させることがリモデリングを起こしている心筋に対する
壁張力をいかに減少させ,リモデリングを戻しうるかはいまだ不明な点が多い.わが国からのエビデンスとして,僧帽弁形成を必要とする虚血性心筋症で
は左室収縮末期容量係数が105~150 mL/m2 の症例において左室形成術の追加による効果が認められるという報告もあるが494),わが国の左室形成術
をまとめたJ-STICHレジストリーにおいては重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)を伴った左室形成術の1年生存率は60%であり495),心筋バイアビリティを考慮し
て手術適応を決める必要がある.一方で,非虚血性心筋症に対するバチスタ手術に代表される左室形成術の有効性は明らかではなく,2005年以降AHA
の慢性心不全ガイドライン4)で本術式の推奨レベルはクラスIIIとされており,わが国における施術も限定されている.
1.1 左室形成術
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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