これまでの臨床試験の結果,臨床上心不全症状を呈する症例の約半数がLVEFが正常,もしくは保たれた心不全であることが示されている17).本ガ
イドラインでは,HFrEFとの対比もあり,LVEFが50%以上と定義する.HFpEFの原因としては,心房細動などの不整脈や冠動脈疾患,糖尿病,脂質異
常症などもあげられるが,もっとも多い原因は高血圧症である18).
LVEFが軽度低下している症例は収縮機能障害もある程度あるものの,実臨床上はHFpEFに近い病態を示す症例が多い.しかし,HFpEFとは異なり,
収縮機能障害に対してはHFrEF患者で十分エビデンスが確立されている治療法が,これら境界領域の患者に有効である可能性も考えられる.そのた
め,これらの症例群はLVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF),もしくはHFpEF borderlineと定義されている.本ガイドラインにおいてはLVEFが40~
49%の群をHFmrEFと定義する.
また,心不全症状を呈した当初はLVEFが低下していたものの,治療や時間経過とともにLVEFが改善する症例群もある(HFpEF improved,またはHF
with recovered EF;HFrecEF)19).頻脈性心房細動などによる頻脈誘発性心筋症(tachycardia-induced cardiomyopathy)や虚血性心疾患,β遮断薬で
心機能が回復した拡張型心筋症などがこの症例群に該当するものと考えられ,左室収縮能,拡張能や心胸郭比(cardiothoracic ratio; CTR),脳性(B
型)ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)が正常化することもある.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)