心不全では,内皮機能障害や活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)産生の増加により,一酸化窒素(NO)の産生や利用効率が低下し,その
受容体でもある可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase;sGC)の活性化が低下し,その結果,環状グアノシン一リン酸(cyclic
guanosine monophosphate; cGMP)産生が減少するだけでなく,ROSによりsGCはNO不応性の非活性型に変換されている.このような観点から,
cGMPを介する細胞内情報伝達系が,HFrEF,HFpEFともに治療ターゲットとして注目されてきている581-583).
最近開発されたvericiguatは,NO非依存性にNO結合部位以外を介してsGCを直接刺激してNO産生を促進するだけでなく,NOとの相乗効果も有してい
るsGC stimulatorである581, 583).
vericiguatは,LVEF 45%未満のHFrEF症例を対象に用量設定第II相ランダム化比較試験(SOCRATESREDUCED)が実施され584),その結果も報告さ
れている585).この試験では,2013~2015年に,4週以内に心不全症状の増悪が認められた症例の安定期にvericiguat 1.25 mg,2.5 mg,5 mg,10 mg
が各群91人に投与され,プラセボ群と比較された.一次エンドポイントである12週後の対数変換したNT-proBNP 値の治療前値との変化は,vericiguat群
で有意ではなかったが,二次エンドポイントであるvericiguatの用量とNT-proBNP値の低下の程度の間には用量依存関係が有意に認められた.
以上のように,vericiguatのHFrEF症例における忍容性が示されたことにより,現在は世界規模の第III相プラセボ対照ランダム化比較試験(VICTORIA)
が進行中である586).この試験は全体で4,872人のLVEF>45%,NYHA心機能分類II ~ IV度の心不全症例を登録予定で,2020年に登録を完成させ,
平均3.5年の追跡が予定されており,一次エンドポイントは心血管死亡と心不全による入院の複合エンドポイントである.この試験にはわが国も参加してい
る.
第III相試験の結果により,将来欧米のガイドラインも含め本薬剤の位置づけが明確になるものと思われる.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)