1)疾患名: 遺伝学的検査の目的となる疾患名・病態名
2)疫学的事項: 有病率,罹患率,性比,人種差等
3)病態生理: 既知もしくは推測される分子遺伝学的発症機序,不明であればその旨の説明
4)疾患説明: 症状,発症年齢,合併症,生命予後等の正確な自然歴
5)治療法: 治療法・予防法・早期診断治療法(サーベイランス法)の有無,効果,限界,副作用等
6)遺伝学的事項:
・遺伝形式: 確定もしくは推定される遺伝形式
・浸透率,新規突然変異率,性腺モザイク等により生じる確率
・再発(確)率: 同胞ならびに子の再発(確)率(理論的確率と経験的確率)
・遺伝学的影響: 血縁者が罹患する可能性,もしくは非発症保因者である可能性の有無
7)遺伝学的検査:
・遺伝学的検査の目的(発症者における遺伝学検査の意義),検査の対象となる遺伝子の名称や性質等
・遺伝学的検査の方法: 検体の採取法,遺伝子解析技術等
・遺伝学的検査により診断が確定する確率: 検査精度や検査法による検出率の差等
・遺伝学的検査によりさらに詳しくわかること: 遺伝型と表現型の関係
・遺伝学的検査結果の開示法: 結果開示の方法やその対象者
・発症者の遺伝学検査の情報に基づいた,血縁者の非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断の可能性,
その概要と意義
8)社会資源に関する情報: 医療費補助制度,社会福祉制度,患者支援団体情報等
9)遺伝カウンセリングの提供について
10)遺伝情報の特性:
・遺伝学的情報が血縁者間で一部共有されていること
・発症者の確定診断の目的で行われる遺伝学的検査においても,得られた個人の遺伝学的情報が血縁者のた
めに有用である可能性があるときは,積極的に血縁者への開示を考慮すべきであること
11)被検者の権利:
・検査を受けること,受けないこと,あるいは検査の中断を申し出ることについては自由であり,結果の開
示を拒否することも可能であること
・検査拒否,中断の申し出,結果の開示拒否を行っても,以後の医療に不利益を受けないこと
・検査前後に被検者が取り得る選択肢が提示され,選択肢ごとのメリット・デメリットが平易に説明されること
注: ここに掲げた事項は,これらすべてを遺伝学的検査実施前に説明しなければならないということではなく,被
検者の理解や疾患の特性に応じた説明を行う際の参考として例示したものである
6 出生前検査・診断(着床前診断を含む)
Ⅰ 総論 > 2 遺伝学的検査の目的・条件 > 6 出生前検査・診断(着床前診断を含む)
 遺伝子変異等により発生することが明らかとなっている先天性心臓血管疾患については,遺伝学的検査等の検査が可能な場合,出生前診断が可能である.

 ただし,出生前検査・診断を行う前に,当該の心臓血管疾患の重篤性を十分に勘案して検討することが重要であり,検査前遺伝カウンセリングを行うことが特に重要
である.

 また,当該疾患罹患児はもとより,同胞,両親,血縁者等に対しても遺伝学的検査等を実施する必要性のある場合,それらに関する情報も十分提示の上,遺伝学的
検査,出生前診断の情報提供をしなくてはならない.本人や血縁者に及ぼす影響に関してもカウンセリングを行い,遺伝情報を「知らないでいる権利」があることにつ
いても十分な情報提供を行う必要がある.

 上記の遺伝カウンセリングを経て,出生前診断を行うことが決定した場合には,日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドラインに関するガイド
ライン」9)(表1)および日本産科婦人科学会「出生前に行われる検査および診断に関する見解」改定案(2011年2 月)に記載された基準に従う.

 なお,着床前診断に関しては,各施設における倫理委員会で個々に審議した後,日本産科婦人科学会に申請の上,さらなる倫理審議を受けたのち実施可能とす
る.
表1 遺伝学的検査実施時に考慮される説明事項の例
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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