利尿薬はうっ血に基づく自覚症状の改善に有用である.HFpEF患者の経過中に肺動脈圧上昇を検出して介入を行うと,心不全増悪による入院阻止
に結びつくが,その際にもっとも多用された薬剤も利尿薬である308).ループ利尿薬が多用されるが,薬剤間での効果の差異については,これまであま
り議論がなされていない.わが国で行われたJ-MELODIC試験によると,短時間作用型利尿薬(フロセミド)より長時間作用型利尿薬(アゾセミド)のほ
うが予後改善効果,とくに心不全の再増悪を抑制する効果が大きかった275).この研究はHFpEFのみを対象としたものではないが,過半数の対象患
者のLVEFが50%以上であり,結論はLVEFに影響を受けないことが示されている.海外でも,長時間作用型であり生物学的利用度が高く抗アルドス
テロン作用も有するとされるトラセミドは,フロセミドに比しイベント発生率低下効果が優れているとする報告が複数ある309).
わが国では,急性心不全による入院加療中にトルバプタンが導入され,退院後も継続して処方されるケースが増加している.トルバプタンが再入院
を減少させることを示唆する報告も見受けられるが310),長期予後改善効果は確立されていない.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)