IABPの循環補助の機序は,大腿動脈から下行大動脈に留置したバルーンのカンターパルセーションによる後負荷軽減と冠動脈血流増加である.
わが国では1~2週間の補助が通常限界であるが,海外では鎖骨下動脈から挿入可能なタイプがあり812),より長期間の留置に耐えうる.
元来IABPの適応となるのは,急性心筋梗塞における再灌流療法前後の補助または急性心筋梗塞の機械的合併症(心室中隔穿孔や急性僧帽弁逆流)
に対する外科的修復前であるが,表67 810, 811)の重症度分類におけるprofile 1または2に属する重症心不全全般に対してもIABPは適応と考えられてきて
いる.ランダム化試験において,IABPの使用は急性心筋梗塞による心原性ショックの予後を改善しておらず( IABP-SHOCK II試験)714, 813),
ルーチンでの使用は推奨されないものの,一般に内科治療に反応しない重症心不全の場合,使用が考慮される.とくに前述の機序を考えると,
僧帽弁逆流を伴う例や虚血性心疾患においてより効果が期待できる.一方で,不整脈や高度の頻脈を伴う時には,その補助効果は減弱する.また,
圧補助手段であり,著しい血圧低下を伴う場合や心肺停止時には無効である.
禁忌として,中等度以上の大動脈弁逆流や大動脈解離を有する患者などがある.合併症として,とくにバルーン挿入側の下肢虚血に注意する.
P*
INTERMACS
状態デバイス選択
J-MACS
1
Critical cardiogenic
shock
"Crash and burn"
静注強心薬の増量や
機械的補助循環を
行っても血行動態の
破綻と末梢循環不全
をきたしている状態
IABP,PCPS,
循環補助用心内
留置型ポンプカ
テーテル,
体外循環用遠心ポンプ,体外設置型VAD
重度の心原性ショック2
Progressive decline despite inotropic support
"Sliding on inotropes"
静注強心薬の投与によっても腎機能や栄養状態,うっ血徴候
が増悪しつつあり,強心薬の増量を余儀なくされる状態IABP,PCPS,
体外循環用遠心ポンプ,体外設置型VAD,
植込型LVAD進行性の衰弱3
Stable butinotropedependent"Dependent
stability"比較的低用量の静注強心薬によって血行
動態は維持されているものの,血圧低下,心不全症状の増悪,
腎機能の増悪の懸念があり,静注強心薬を中止できない状態
植込型LVAD安定した強心薬依存4
Resting symptoms "Frequent flyer"
一時的に静注強心薬から離脱可能であり退院できるものの,
心不全の増悪によって容易に再入院を繰り返す状態
植込型LVADを検討( とくにmodifier A** の
安静時症状 場合)5
Exertion intolerant
"House-bound"
身の回りのことは自ら可能であるものの日常生活制限が高度
で外出困難な状態
modifier A** の
場合は植込型
運動不耐容 LVADを検討
6
Exertion limited
"Walking
wounded"
外出可能であるが,
ごく軽い労作以上は
困難で100 m程度
の歩行で症状が生じ
る状態
modifier A** の
場合は植込型
LVADを検討
軽労作可能状態
7
Advanced NYHA III
"Placeholder"
100 m程度の歩行は
倦怠感なく可能であ
り,また最近6ヵ月
以内に心不全入院が
ない状態
modifier A** の
場合は植込型
安定状態 LVADを検討
表67 INTERMACS/J-MACS 分類とデバイスの選択
*プロファイル
**致死性心室不整脈によりICDの適正作動を頻回に繰り返すこと.
(Stevenson LW, et al. 2009 810),日本胸部外科学会811) より作表)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)