1990年代に左室収縮のdyssynchronyを伴った心不全の治療として両室ペーシングが開始され371, 372),心臓再同期療法(cardiac resynchronization
therapy; CRT)と定義された.2001年以降CRTに関するランダム化前向き試験が実施された363, 373-380).主に薬物治療抵抗性のNYHA心機能分類III度
またはIV度の重症心不全で,LVEF≦35%,洞調律,QRS幅が120~150ミリ秒以上の症例を対象としている.その結果,CRTは運動耐容能を含めた
QOLを改善し,左室内径を縮小し(左室リモデリングの改善),LVEFを増加することが示された14).さらにCOMPANION 363)は総死亡または心不全入院
の減少を,CARE-HF 380)は総死亡の減少を示した.メタ解析でも,CRTは総死亡を26%減少させた381)

 多くの臨床研究がQRS幅120ミリ秒以上の例を対象としているが,COMPANION 363),CARE-HF 380)では,それぞれ148ミリ秒以上,160ミリ秒以上の
例で死亡率が有意に減少しており,生命予後の観点からは幅広いQRS(150ミリ秒以上)の症例ほど効果が顕著といえる.なお,右脚ブロック例に対す
るCRTの効果として,MIRACLE 374)のサブ解析では,とくに左脚前枝または後枝ブロックを伴う例においてCRTは心機能やQOLを改善した382)
しかしながら,MIRACLE 374)とCONTAK-CD 378)のプールされたデータの解析では右脚ブロック例では効果がなかった383)

 一方,徐脈に対してペースメーカが適応となる場合,右室ペーシングでは心房細動や心不全発症を介して生命予後が悪化することが知られている384,
385).RD-CHFは,NYHA心機能分類III度,IV度の心不全患者を対象として,右室ペーシングと両室ペーシングの効果を比較検討し,CRTへのアップグ
レードの有用性を示した386).またBLOCK HFでは,房室ブロックに伴うペースメーカ適応があり,NYHA心機能分類I ~ III度かつLVEF≦50%を満たす
患者を対象とし,両室ペーシング(CRT)と右室単独ペーシングでの比較が行われた.平均観察期間37ヵ月において,総死亡もしくは急性心不全もしくは
左室リモデリングの悪化を両室ペーシングが有意に減少させ,CRTの有用性を示した387)
2.1臨床効果
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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