筋芽細胞シートは,重症心不全に対する細胞治療の一種であり,6×10 7個の筋芽細胞からなる一枚のシートを,左側方開胸にて5枚,左室前壁から側
壁の広範囲の心外膜に移植する治療である.筋芽細胞は下腿の内側広筋から5~10 g程度の骨格筋を採取し,筋芽細胞を抽出,培養し,所定の細胞
数がそろった後,冷凍保存を行い,手術日が決定すれば,細胞を解凍し,温度応答性培養皿にて,筋芽細胞シートを作製し,移植する.移植した筋芽細
胞シートが,移植後虚血状態になり,hypoxia inducible factor(HIF)-1遺伝子が発現し,同遺伝子発現に誘発されて,肝細胞増殖因子,血管内皮増殖
因子(vascular endothelial growth factor; VEGF),塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF),stromal derived factor-1
などのサイトカインが分泌され,同サイトカインによる血管新生,幹細胞誘導,線維化抑制などの作用により,心機能の改善が期待される932).細胞培養
室にてクリーンな状況下で細胞を培養するため,HIVや肝炎などのウイルスに罹患している患者には禁忌である.これまでの心不全動物を用いた基礎研
究では,心機能の改善,生命予後の延長効果が認められている.
左室補助人工心臓を装着した拡張型心筋症患者4人に対して自己筋芽細胞シートを移植した報告では,2人の患者において心機能の改善が確認さ
れ,同患者は人工心臓より離脱した933).また,虚血性心筋症においては,臨床研究934),多施設共同企業治験935)を経て,同治療法の安全性および有
効性が確認され,同治療法は早期承認制度のもとに世界初の心不全に対する再生医療等製品「ハートシート®」として保険償還された.
虚血性心筋症患者においては,単群試験で本治療を行うことにより症状および心機能の改善,心不全症状の軽減を認め,BNPの有意な減少,
肺動脈圧,肺動脈血管抵抗の有意な減少を認めた.また,小児・成人の拡張型心筋症に対しても医師主導型治験が行われている.現在,筋芽細胞シー
トは重症心不全患者すべてに有効性が検証されているわけではなく,今後,同治療法に反応する患者群の選定が必須である.
6.ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート(ハートシート® )
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)