和温療法は,Teiらにより開発された心不全に対するわが国独自の治療法である936).その方法は,乾式遠赤外線サウナ装置により60℃の均等乾式サ
ウナ浴を15分間施行後,出浴後30分間の安静保温を行うもので,これにより深部体温が約1度上昇し,その結果さまざまな効果を発揮すると考えられてい
る.
和温療法の心不全に対する効果として,肺動脈楔入圧の低下や心拍出量増加などの血行動態の改善859),左室収縮機能937- 939)および拡張心機能940)
の改善,心不全症状の改善937, 939, 941), QOLの改善939),運動耐容能の改善939),BNPの低下938- 942),アルドステロン値の低下940),末梢血管内皮機能
の改善939, 941), 心拍変動の改善943, 944)心不全患者における心室不整脈の減少944)などが報告されている.さらに心不全の予後に対する効果としては,
退院後も外来で週2回程度和温療法を継続することにより,心不全患者の死亡や心不全による再入院を有意に減らし,予後を改善するという3施設からの
後ろ向き研究の結果が発表されている945).しかしながら,これらの報告は少数例のものやランダム化されていないものも含まれていたため,さらに厳格な
試験デザインに基づいて計画された臨床試験によって和温療法の効果と安全性を検証するために行われたのが,多施設共同ランダム化比較試験
WAON-CHFである946).WAONCHF試験では19施設から入院時BNPが500 pg/mL超,さらに薬物療法を行っても300 pg/mL超の患者149人が和温療法
群
(1日1回,10日間)または対照群に組み入れられた.
その結果,和温療法群でのみBNP,NYHA心機能分類,6分間歩行距離,心胸比の改善がみられ,安全性にも問題がないことが明らかになったが,
一次エンドポイントであるBNPの変化については両群間で有意差が示されなかった.
このように数多くの報告があるが,和温療法に関しては,わが国での心不全に対する使用は保険適用外である.なお,和温療法は急性効果として心拍
出量を有意に増加させるため,高度の大動脈弁狭窄症や肥大型閉塞性心筋症の重症例に対しては慎重に施行すべきであり,感染症がコントロールでき
ていない患者や高熱患者には禁忌である.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)