omecamtiv mecarbilは,ミオシンの触媒ドメインに結合し,ミオシンとアクチンとの強固な結合の割合を増加することにより心筋収縮力を増強する薬剤で
ある923).したがって,β受容体刺激薬やPDEIII阻害薬などのいわゆる“強心薬”とは異なり,細胞内カルシウム増加を伴わないため,従来の“強心薬”のよ
うに生命予後悪化をもたらすことなく心機能を高めることができると考えられ,新しい心不全治療薬として期待されている.単離心筋を用いた研究では,
カルシウムトランジエントの増加を伴わない収縮の増強と収縮時間の延長がみられている923)

 omecamtiv mecarbilの最初のヒトを対象とした研究結果は2011年に発表され,健常人においてomecamtiv mecarbil静脈内投与により用量依存性に収
縮期駆出時間が延長し,一回拍出量およびLVEFは増加することが確認された924).ただし高濃度では,用量限界性にomecamtiv mecarbil による収縮時
間の延長に伴うと思われる心筋虚血の心電図や胸部症状が出現した症例もあった.

 収縮機能不全に基づく心不全患者を対象とした第II相臨床試験結果も上記の報告と同時に発表され925),二重盲検クロスオーバー法により比較的少数例
を対象に実薬またはプラセボが投与された結果,omecamtiv mecarbilの血中濃度に比例して左室駆出時間は延長し,一回拍出量は増加し,血漿濃度の
高い患者では左室収縮末期および拡張末期容積が減少した.一方,心拍数はわずかながら有意に減少した.ただし,健常人を対象とした上記の報告と同
様,やはり高用量では心筋虚血が出現した症例もあった.

 次に行われた臨床試験は多数例を対象としたランダム化比較試験ATOMIC-AHF 926)で,606人のLVEF 40%以下で呼吸困難の症状があり,利尿ペプチ
ドが上昇している急性心不全患者を対象として,プラセボまたは血中濃度115ng/mL, 230 ng/mL, 310 ng/mLをそれぞれ目標値としてomecamtiv
mecarbilが3段階に増量投与される群に割り付けられた.その結果,omecamtiv mecarbilは一次エンドポイントである呼吸困難の有意な改善を達成できな
かったが,高用量群では48時間および5日目までの呼吸困難は有意に改善した.一方,有害事象および忍容性についてはomecamtiv mecarbil群はプラ
セボ群にくらべて変わりなく,不整脈が増加するということもなかった.ただし,血漿トロポニンがomecamtiv mecarbil群で有意に上昇した.

 経口薬についての臨床試験も行われており,COSMICHF927)ではLVEF 40%以下の症候性の心不全患者448人がomecamtiv mecarbil 25 mg 1日2回
投与群,薬物動態を見ながら50 mgまで増量する群,プラセボ群に無作為に割り付けられ20週間投与された.50 mgまで増量した群の20週目の駆出時間
はプラセボ群にくらべて延長し,心拍出量は増加,左室拡張末期径は短縮,心拍数は減少した.なお,有害事象は3群間で有意差がなかった.

 長期予後に関するデータはいまだ出ていないが,約8,000人のHFrEF患者を対象とし,心血管死亡または心不全イベントに対する効果を検証するための
第III相試験,GALACTIC-HF が現在進行中である928)

 このように現時点では予後改善効果についてのエビデンスがなく,また高濃度ではトロポニンの上昇および心筋虚血が起こりうることにも注意が必要で,
上記のGALACTICHFの結果が待たれるところである.第III相試験の結果により,将来欧米のガイドラインも含め本薬剤の位置づけが明確になるものと思わ
れる.
4.omecamtiv mecarbil(心筋ミオシン活性化薬)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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