HFrEFの予後は既存の心不全治療薬により改善したものの,いまだに不良であり,HFpEFに至っては予後を改善するエビデンスをもった薬剤はいまだ
に開発されていない.このような観点から,新規の心不全治療薬の開発が待たれるところである917).

 心不全では,内皮機能障害や活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)産生の増加により,一酸化窒素(NO)の産生や利用効率が低下し,
その受容体でもある可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase; sGC)の活性化が低下し,その結果環状グアノシン一リン酸
(cyclic guanosine monophosphate; cGMP)産生が減少するだけでなく,ROSによりsGCはNO不応性の非活性型に変換されている.このような観点か
ら,cGMPを介する細胞内情報伝達系が,HFrEF,HFpEFともに治療ターゲットとして注目されてきている917- 919)

 最近,NO非依存性にsGCに作用する2種類の薬剤,sGC刺激薬とsGC活性化薬が開発された.sGC刺激薬は,NO非依存性にNO結合部位以外を介
してsGCを直接刺激してNO産生を促進するだけでなく,NOとの相乗効果を有している.一方,sGC活性化薬は,酸化型あるいはヘムフリーのNO不応性
の非活性型sGC(apo-sGCともよばれる)に結合して直接sGCを活性化する.本項で取り上げるvericiguatはsGC stimulatorである917, 919)

 vericiguatは,LVEF 45%未満のHFrEF症例を対象に用量設定第II 相ランダム化比較試験(SOCRATESREDUCED)が実施され920),その結果も報告
されている921).この試験では,2013~2015年に,4週以内に心不全症状の増悪が認められた症例の安定期にvericiguat 1.25 mg,2.5 mg,5 mg,
10 mgが各群91人に投与され,プラセボ群と比較された.一次エンドポイントは12週後の対数変換したNT-proBNP値の治療前値との変化とされ,
用量の多い3群のプールされた症例とプラセボ群とで比較された.試験は全体の77%に相当する症例で脱落することなく遂行された.対数変換された
NT-proBNP値は,vericiguat群で治療前値が7.969,12週後が7.567で変化は-0.402,幾何学平均値は治療前値が2,890 pg/mL,12週後が
1,932pg/mLであった.プラセボ群では,対数変換NT-proBNP値は治療前値が8.283,12週後が8.002 で変化は-0.280,幾何学平均値は治療前値が
3,955 pg/mL,12週後が2,988pg/mLであった.両群間の対数変換NT-proBNP値の変化の差は-0.122 で90% CIが-0.32~0.07 であり有意な差は認
められなかった.しかし,二次エンドポイントであるvericiguatの用量とNT-proBNP値の低下の程度の間には用量依存関係が有意に認められた.また,
有害事象の出現頻度については,最大用量のvericiguat群と偽薬群のあいだで差は認められなかった.

 以上の結果より,vericiguatはHFrEF症例において忍容性が示されたことにより,現在は世界規模の第III相プラセボ対照ランダム化比較試験
(VICTORIA)が進行中である922).この試験は全体で4,872人のLVEF>45%,NYHA心機能分類II ~ IV度の心不全症例を登録予定で,2020年に登録
を完成させ,平均3.5年の追跡が予定されており,一次エンドポイントは心血管死亡と心不全の入院の複合エンドポイントである.この試験にはわが国も参
加している.第III相試験の結果により,将来欧米のガイドラインも含め本薬剤の位置づけが明確になるものと思われる.
3.vericiguat( sGC活性化薬)
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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