心エコー法の左室収縮能の指標としては,その簡便性によりLVEFが用いられる.LVEFは必ずしも左室収縮能を正確に表す指標ではないが,
LVEFにより心不全の病態分類が行われ,心不全は大きく,LVEFの保たれた心不全(HFpEF)とLVEFが低下した心不全(HFrEF)とに分類され
る.LVEFの計測には,心尖部四腔像,二腔像の2断面から心内膜面をトレースして容積を求める,ディスク法(modified Simpson法)を用いる.
Mモード法や断層法で計測した左室径を用いてTeichholz 法によりLVEFを求める手法もあるが,虚血性心疾患や奇異性運動を認める症例など局所
の壁運動異常が認められる場合には不正確であり,推奨されない.
LVEFは左室収縮能のみを反映するのではなく,心拍数,血圧,左室容積など他因子の影響も受けることから,それらも考慮してLVEFを用いた収
縮能評価を行わなくてはならない.とくに僧帽弁および大動脈弁閉鎖不全におけるLVEFを用いた評価では,収縮能の過大評価とならないように注
意を要する.また,左室壁肥厚を有する場合(高血圧性心疾患,肥大型心筋症など)にもLVEFは収縮能を過大評価しており,このような場合には
mid-wall fractionalshorteningの算出が望ましい117).虚血性心疾患などでは左室の収縮性は均一に障害されるわけではない.心不全の病因の診
断および病態把握のため,LVEFによる左室全体の収縮性の評価とともに,局所の壁運動評価も必要である.スペックルトラッキング法を用いたスト
レイン解析は,より鋭敏に収縮能低下を評価しうる手法として臨床応用が進んでいる.エコー機器や解析ソフトによる値のばらつきなどの問題点が残
るが,長軸方向の左室全体ストレイン(global longitudinal strain; GLS)は再現性がよく,疾患の早期診断に有用である118).
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)