推奨クラスエビデンスレベルMinds推奨
グレード
Minds
エビデンス
分類
心不全の新規発症や急性増
悪の際の胸部単純X線写真
4.胸部単純X線写真
 心不全の存在および重症度診断に,いまなお胸部単純X線写真は有用である(表14).なかでも,左心不全における肺うっ血像が重要である.
救急現場で心陰影拡大とともに肺静脈拡張像がみられた場合,心不全である可能性が高くなる52).また,肺炎などの呼吸器疾患との鑑別に有用で
あり,肺うっ血の重症度も判断できる(図7).すなわち,軽度(肺静脈圧15~20 mmHg)では肺尖部への血流再分布所見(cephalization:角出し
像)を認める.重力に逆らう上方への肺静脈拡張像であり,立位像で判定する.ただし実臨床では,救急患者や重症例はポータブル撮影,とくに臥
位撮影で行われ,また十分な吸気止めができないことから,正確な評価が難しいことも少なからずある.間質性肺水腫(肺静脈圧20~30 mmHg)に
なると,肺気管周囲(peribronchial)や肺血管周囲(perivascular)の浮腫(cuffing sign)やカーリー(Kerley’s) A,B,C線が出現する.さらに進行す
ると,肺胞性肺水腫(肺静脈圧30 mmHg以上)となり蝶形像(butterfly shadow)がみられる.ただし,間質の浮腫は毛細血管の静水圧上昇による
血漿成分の漏出像であるが,肺静脈圧が高くとも経過の長い左心不全では肺リンパ管が発達し,漏出成分の回収により肺うっ血像をきたしにくい例
がある111).一方,臓側胸膜は肺静脈へ,壁側胸膜は体静脈へと還流する二重支配のため,胸水貯留は両心不全で多く,右心単独不全では少ない
112).また,胸水や肺水腫は右側により多くみられるが,右肺は灌流容積が大きく,左肺はリンパ管が太いためとされる113).なお,肺炎が心不全の
誘因となることも多く,胸部単純X線写真で診断がつかないときは胸部単純CT検査を必要とする.

 縦隔陰影としては,左房拡大,右室拡大,肺動脈陰影拡大が観察されるが,心エコー図の診断能を上回るものではない.心胸郭比の推移は低圧
系心腔の容量変化の総和であり,うっ血の現況を判定するだけでなく,予後予測能も有する114).胸部単純X線写真側面像は,右心系と左心系との
分離および心外膜石灰化の診断に有用である.
表14 心不全における胸部単純X 線写真の推奨と
エビデンスレベル
図7 心不全の胸部単純X 線写真(シェーマ)
①cephalization(角出し像)
 肺尖部への血流の再分布所見(肺静脈圧15~20 mmHg)
②perivascular cuffing(肺血管周囲の浮腫)
③Kerley’s B line(カーリーB線)
④Kerley’s A line(カーリーA線)
⑤Kerley’s C line(カーリーC線)
⑥peribronchial cuffing(気管支周囲の浮腫)
 ②-⑥:間質性肺水腫所見(肺静脈圧20~30 mmHg)
⑦vanishing tumor(一過性腫瘤状陰影)
 胸水
⑧butterfly shadow(蝶形像)
 肺胞性肺水腫所見(肺静脈30 mmHg以上)
⑨⑩costophrenic angle(肋骨横隔膜角) の鈍化
 胸水
⑪上大静脈の突出
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
次へ