心不全患者は,貧血とともに急性心不全,慢性心不全,どちらにおいても鉄欠乏(診断基準:血清フェリチン濃度100 μg/L未満,あるいは血清フェリチ
ン濃度100~299 μg/Lかつトランスフェリン飽和度20%未満)を合併することが報告される652, 653)

 心不全における鉄欠乏の合併が報告されていることもあり,慢性心不全患者を対象に静脈内鉄剤投与単独によるランダム化比較試験がいくつか試
みられている.鉄欠乏を有するHFrEF患者を対象に鉄剤(カルボキシマルトース鉄)静注療法の有効性および安全性を検討したランダム化二重盲検試
験,FAIR-HF 654),CONFIRM-HF 655)の結果が発表されている.FAIR-HFでは,貧血の有無に限らず,鉄剤静注療法による症状改善が報告されてい
る.
また,CONFIRM-HFでは鉄剤静注により心不全患者の自覚症状改善,6分間歩行距離の延長,さらに心不全悪化入院の減少が示されている.

 しかし,どちらの試験においても予後改善効果は示されていない.一方,経口鉄剤については,鉄欠乏合併慢性HFrEF患者に対する経口鉄剤の大
規模ランダム化二重盲検試験,IRONOUT-HFの結果が発表されているが,経口鉄剤による心不全改善効果は示されていない656).いずれの試験にお
いても,鉄剤長期投与の安全性およびHFpEF患者,急性心不全患者に対する鉄剤の有効性および安全性についてはこれまでに検討されておらず,
現在のところ不明である.鉄不足はエネルギー代謝異常をきたしうるが,鉄過剰は酸化ストレス,悪性腫瘍の形成に関わる.したがって,血中ヘモグロ
ビン値正常化を目指して安易に鉄補充を行えばよいわけではない.
11.2.1 鉄剤
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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