心不全の背景疾患として,冠動脈疾患は高血圧や拡張型心筋症とともに頻度が高い524).とくにわが国においては,近年,心不全の背景疾患・併存
症としての冠動脈疾患の頻度の増加が報告されており,2000~2004年に登録を行ったCHART-1研究ではその頻度は23%であったが,2006~2010
年に登録を行ったCHART-2研究では47%に増加している34, 525).一方,急性心不全においては,2007~2011年に4,842人を登録したATTEND研究
526)ではその頻度は31%,2004~2005年に登録したJCARE-CARD研究36)では32%であった.また近年,LVEFが保たれた虚血性心不全が増加して
いる.ATTEND研究に登録されたLVEFが40%以上に保たれた急性心不全1,601人における虚血性心不全の頻度は29%,JCARE-CARD研究に登録
されたLVEF 50%以上の心不全症例429人では25%であり,外来症例を中心に登録するCHART研究ではLVEFが50%以上の症例における虚血性心
不全の割合はCHART-1研究からCHART-2 研究にかけて19%から45%へと増加を認めている35)

 わが国の虚血性心不全の予後に関する報告は少ないが,CHART-1研究の報告では心筋梗塞後に発症した心不全患者の3年死亡率は29%であり,
非虚血性心不全症例の12%にくらべて高率であった527).またATTEND研究の報告では,虚血性心疾患に由来する急性心不全症例の死亡率は,
LVEFが40%以上に保たれた症例では他の基礎疾患に基づく症例と同等であったが,LVEFが40%以下に低下した症例では心臓弁膜症に基づく症例
と並び高かった528).CHART研究に登録されたNYHA心機能分類II度以上の症状を有する虚血性心不全症例の3年死亡率は,CHART-1からCHART-2
にかけて29%から15%に改善しており,心臓血管死亡率と心不全増悪による入院率もそれぞれ20%から8%,35%から16%に改善を認めた35)
これらはいずれもCHART-1研究では有症候性の非虚血性心不全症例に比較して高率であったが,CHART-2研究ではすべてほぼ同等となっている
35)

 心筋虚血は収縮機能と拡張機能の双方を障害し,心筋梗塞による心筋傷害は心室機能不全の原因となる.そのため心不全に狭心症を合併すると,
運動耐容能はさらに低下し,心筋虚血は心不全を増悪させる一方で,心不全は心筋虚血を増強して悪循環を形成する.心筋虚血や心筋障害に伴う
不整脈の出現はときに致死的であり,また血行動態を破綻させる.また,生活習慣病など冠危険因子の合併は動脈硬化や心機能障害と関連するため
注意が必要である.すなわち虚血性心不全の治療においては,1)心機能,2)心筋虚血,3)不整脈イベント,4)冠危険因子の管理,を念頭に置く.
4.1病態
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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