心不全に合併する心室不整脈として,心室期外収縮・非持続性心室頻拍・心室頻拍・心室細動があげられる.陳旧性心筋梗塞や拡張型心筋症などの
器質的心疾患に合併し血行動態の破綻する持続性心室頻拍および心室細動には,すみやかに電気的除細動を施行する.再発する心室頻拍・心室細動
に対しては抗不整脈薬が用いられるが,カリウムチャネル遮断薬であるアミオダロン・ニフェカラントの静脈投与は即効性があり,高い予防効果が期待
できる518, 519).無症候性の心室不整脈に対する薬物治療は予後を悪化させる可能性があり,投与すべきではない.低カリウム血症,低マグネシウム血
症などの電解質補正や,催不整脈作用を有する薬剤の中止など,致死性心室不整脈の誘因や助長因子を同定し,可能なものについては補正する.
心筋虚血が不整脈発生に関与している場合には,血行再建による虚血の解除も重要となる.心不全患者では利尿薬の使用などにより低カリウム血症を
認めることが多く,QT延長に伴う多形性心室頻拍520),torsade de pointes時には低カリウム血症,低マグネシウム血症などの電解質補正とともに,
硫酸マグネシウムの点滴静注が有効である521).
植込み型除細動器(ICD)が植え込まれている患者での適切作動・不適切作動のショックを契機に,疼痛や精神的不安感により頻回のICD作動につな
がることもある.十分な鎮痛・鎮静,必要によっては人工呼吸器による管理も考慮する.とくに,24時間以内に3回以上の致死性心室不整脈を認める状態
を「電気的ストーム(“electrical storm” )」と呼び,除細動抵抗性の場合には経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support; PCPS)を
装着し,循環動態を維持しつつ不整脈に対する対応を行う.薬物治療によっても致死性心室不整脈をコントロールできない場合には,カテーテルアブレー
ションによる治療も考慮される522, 523).慢性心不全患者に発症する致死性心室不整脈の再発・突然死予防には,経口β 遮断薬が有用である48, 250, 251).
β 遮断薬に加え経口アミオダロンも治療選択肢にあげられるが282),長期間の使用による副作用の懸念もあり,注意深く経過を見る必要がある.また,
ソタロールはカリウムチャネル遮断作用に加えてβ遮断薬の作用も有しており,低心機能症例には陰性変力作用が懸念されるため注意を要する.
心不全患者の突然死予防はICDによる非薬物治療が主体となり283),抗不整脈薬による治療は不整脈発作頻度を減少させる補助的な目的で用いられる
ことを念頭に置く.
表34 心不全患者に併発する心室不整脈に対する治療の推奨とエビデンスレベル
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)