心房細動が併存する慢性心不全に対してβ遮断薬には予後改善効果が認めらないことが欧米諸国の臨床試験のメタ解析で明らかとなったが,
多くはNYHA心機能分類III度もしくはIV度,LVEFが30%未満の重症例を対象としている268).このような母集団では,心拍数ではなく心房細動自体が
予後に影響を及ぼしている可能性が考えられる.一方で,心房細動を伴う中等症から重症の心不全を対象としたレジストリー研究では,β遮断薬は総
死亡を有意に抑制し,さらに心房細動の心拍数との関連では,心拍数が100拍/分を超えれば死亡率が有意に増加することが示された488)

 したがって,実臨床での治療に際しては,心不全の重症度によりβ遮断薬の予後改善効果に差が生じる可能性があることを考慮することが重要であ
る.動悸などの心房細動に伴う自覚症状が強い場合や,心房細動の心拍数が130拍/分以上に増加し持続することにより心不全をきたしうるため,
心拍数調節を行う必要がある489).わが国の心房細動治療(薬物)ガイドラインでは,心不全がない症例では安静時心拍数を110拍/分未満と設定し,
自覚症状や心機能の改善がみられない場合には安静時心拍数を80拍/分未満,中等度運動時心拍数を110拍/分未満にするとされている490)
 
 J-Land試験では,目標心拍数を110拍/分と設定し,ランジオロールにより48%の症例で目標心拍数に到達できているが486),心不全に合併した心
房細動患者を対象とした至適心拍数はいまだ明らかでない.今後は心不全症例における心房細動の目標心拍数と長期予後や心不全再発のリスク
などの関係を明らかにしていくことが重要となる.

 AF-CHF試験は,LVEF 35%未満の心不全患者をリズムコントロール群とレートコントロール群の2群に無作為に割り付け,予後を追跡した研究であ
491),心血管死亡,心不全入院,脳梗塞発症について両群間に差は認められなかった.電気的除細動に必要な鎮静や抗不整脈薬の副作用などを
考慮すると,慢性心不全で心房細動を併発しているが自覚症状が軽度で,血行動態も安定している場合には,心房細動の状態でのレートコントロー
ルを最初に考慮する.経口β 遮断薬としてカルベジロールもしくはビソプロロールが選択肢にあげられ,ビソプロロールはβ1選択性が高く心拍数低下
作用が強い.一方で,カルベジロールは非選択性であり,高齢者で緩やかなレートコントロールを行う際に有用である.両薬剤ともに,レートコントロー
ルを
第一目的とした用量で開始すると逆に心不全を悪化させることがあり,心不全の状態を考慮しつつ少量から投与する必要がある.経口のジゴキシン
は心拍数調節に加えて強心作用を有し,心不全患者に投与されるが,β遮断薬とは異なり主に夜間帯の心拍数を低下させる492, 493)
1.2.2 レートコントロール
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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