急性心不全加療中に心房細動を発症した場合は,心房収縮の消失と,不規則に心拍数が増加することにより,血行動態が悪化する.また,突然の動
悸症状が先行し心不全を発症した場合にも心房細動自体が心不全発症の契機となり,また増悪に関与する可能性が高く,心房細動自体の治療が重要
となる.そのため,心不全の病態や重症度に応じて心房細動治療の優先度を考慮する.頻脈性心房細動自体が明らかに血行動態に悪影響を与えてい
る可能性が高い場合には,すみやかに電気的除細動を施行する.3週間以上の適切な抗凝固療法が行われておらず,心房細動が48時間以上持続して
いる場合や心房細動の持続時間が不明の場合には,経食道超音波検査により左心房内血栓がないことを確認して除細動を行う必要がある482- 484)
心不全に伴う自覚症状があり,すみやかな心拍数調節を行う場合には静注製剤を用いる.従来から心機能低下症例ではジギタリスの静脈投与が使用
されることが多く,現在でも心不全治療として用いられる485).わが国より,心機能低下症例に合併した頻脈性心房細動・心房粗動に対するランジオロー
ルの有用性をジゴキシンと比較した報告があり,ランジオロールの使用を考慮する486).血行動態の評価を適宜行い,低血圧や徐脈などの合併症予防に
留意して投与量を調節する.LVEFが25%未満の低心機能症例への使用や長期間使用のエビデンスはなく,注意を要する.また,可能なかぎり早期か
らの経口のβ 遮断薬への移行を念頭に置き治療にあたる.非代償性心不全例への非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル・ジルチアゼム)
の使用は,陰性変力作用による心不全悪化の危険性があり禁忌である16).頻脈性心房細動に対するアミオダロンの静注薬は欧米諸国では多く用いら
れているが,わが国では保険適用外である.他の治療で効果不十分な場合や他の治療が適用できない状況で用いられることがあり,有用性が示されて
いる487)
1.2.1 急性心不全に合併した頻脈性心房細動に対する治療
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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