心室中隔穿孔の発症頻度は自由壁破裂の約半数と報告されている.急性心筋梗塞発症後3~5日で発症することが多い.1枝梗塞で梗塞領域が広範
囲(とくに左前下行枝の灌流領域が大きい患者)で,中隔への側副血行路の乏しい例では発生頻度が高い.多枝梗塞でも発生するが,初回梗塞で頻度
が高い.前壁心筋梗塞では心尖部中隔に,下壁心筋梗塞では基部中隔に発生することが多い.中隔穿孔は正常心筋と壊死心筋の境界に起こることが
多く,穿孔部の大きさが左-右シャント血流量を決定する.またその因子が生存率を支配する.中隔穿孔患者は通常,急激に血行動態が破綻し,低血圧,
両心不全症状(ときに右心不全が主体),それにあらたに発生した汎収縮期心雑音が認められるのが特徴である.確定診断は心エコー検査における
シャント血流の存在や,右心カテーテルでの肺動脈での酸素飽和度ステップアップによりなされる.

 外科的治療のタイミングは個々の患者に応じて検討が必要である.心原性ショックをきたしている患者では緊急手術が必要である.手術までは,
血管拡張薬による後負荷軽減,左室圧減少,シャント血流量の減少,強心薬による心拍出量の増加,利尿薬,IABPにより血行動態の安定化を図る.
心不全症状をきたしていない患者では慢性期(発症後数週間)まで待ち,待機的に手術を行う.2~3週以上経過すると穿孔部周辺部の線維化が進み,
強い心筋組織となるため手術は比較的安全に行える.しかし,自然予後からみると発症後2~3週まで血行動態が安定している患者は少ない.待機期間
中に予測不能な急激な血行動態の破綻をきたすこともまれではない.IABP補助下においても,心拍出量の低下,肺高血圧の進行,過剰な体液貯留,
腎機能低下などの徴候があればすみやかに手術を行う.
 
 手術成績は近年格段に向上し,GUSTO-I研究では外科的治療群の30日後および1年後の生存率は内科的治療群にくらべきわめて良好である(30日
生存率:外科治療群53%,内科的治療群6%,1年生存率:外科的治療群47%,内科的治療群3%).高齢患者や手術待機期間が長い患者では成績が
悪い779).外科手術時に冠動脈血行再建術を併せて行うことで長期生存率は向上する.

 手術において,梗塞巣は脆弱であるため力がかかると裂けやすい.したがって,可能なかぎり健常部に糸をかけて梗塞巣を広くパッチで覆う.急性期手
術では多少のシャントが残存しても救命を優先する.手術法としては,パッチを用いて心室中隔を形成するDaggett法と,左室内に心膜を用いてあらたな
腔を作成して右室との交通を断つDavid法とがある.米田-David法では,左室内腔の比較的健常と思われる心筋に牛心膜を袋状に縫着し,右室との交通
を断ち,かつ左室縫合部にかかる左室圧を軽減でき,良好な成績が報告されている.術後に高度の左-右シャント(肺体血流比2以上)と不安定な血行動
態が認められれば再手術を考慮する.
5.5.2 心室中隔穿孔
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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