急性心筋梗塞における急性MRは,主に乳頭筋断裂ないしは腱索断裂が原因である.急性心筋梗塞後のMRの発症頻度は14%程度であり,ほとんど
が軽度から中等度である.重度MRは3%の患者に認められ,死亡率が高い.
SHOCK研究では,急性心筋梗塞による心原性ショック患者の39%が中等度以上のMRをきたし,軽度MRかMRを認めない患者にくらべ1年後死亡率
は有意に高かった775).重度MRがあっても乳頭筋や腱索の断裂を伴わない患者では血行動態は安定している例がある.これらの患者では冠動脈再建
術により虚血が改善されればMRも改善する可能性がある.一方,乳頭筋や腱索の断裂は致命的な急性心筋梗塞合併症であり,急性期死亡の5%に及
ぶ.急性心筋梗塞2~7日後に発生することが多い.冠動脈灌流領域の違いにより,後内側乳頭筋の断裂は前外側乳頭筋に比して6~12倍多い.
比較的梗塞領域が小さく側副血行路の発達していない患者にも認められ,50%の患者は1枝梗塞で初回梗塞例に多い.迅速な診断と内科的治療の開
始およびすみやかな緊急手術が予後を左右する.内科的治療は積極的な血管拡張薬や利尿薬投与による後負荷軽減,またIABPが有効である.
後負荷減少により逆流量が減少し,前方駆出の増大が期待される.内科的治療にて血行動態の安定を試みながら準備が整いしだい,外科的治療に移
行する.手術死亡率は20~25%と報告されているが,保存的治療での救命は困難である.乳頭筋壊死がみられない場合にのみ僧帽弁形成や修復術を
検討する781).外科的治療時に冠動脈再建術も行うことで長期予後も改善する.
表64 急性心筋梗塞の急性MR に対する侵襲的治療の推奨とエビデンスレベル
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)