急性心筋梗塞患者の4~24%に発症し,治療成績はきわめて不良で,とくに初期死亡の20%に及ぶ778).多くは発症1~7日までにみられる.発症には,
徐々に血性心膜液が貯留して心タンポナーデ状態となるoozing(slowrupture)型と急激に破裂するblow-out型がある.前者の場合にはショックに陥る前に
診断が可能で,心膜ドレナージ後に手術を行う.しかし後者では,瞬時に無脈性電気活動(pulseless electrical activity; PEA)となり致命的である.
破裂後迅速に診断,PCPSを開始して全身循環を確保したうえで,ただちに外科的手術に移行する.

 予後は迅速な診断と治療開始タイミングに依存する.自由壁破裂が疑われたらただちにベッドサイド心エコー検査を行い,心膜液貯留が認められれば心
膜穿刺を行う.心膜液が血性であれば緊急手術が必要である.手術準備が整うまでの間,血行動態を安定させる目的で補液(輸血),強心薬,昇圧薬,
心膜ドレナージによる心タンポナーデの解除を行い,IABPやPCPSを開始する.外科手技がすぐに可能であれば可及的すみやかに開胸し,小さな切開孔
から心嚢血液を排除し,出血をコントロールしながら体外循環の準備を進める.全身循環の維持が得られたら体外循環に移行する.体外循環へ移行後は,
破裂部位を特定し,梗塞巣を中心に切開する.心肺停止下に行う方法と心拍動下で行う方法がある.前者では無血静止視野が得られるが梗塞部位の特
定が困難である.梗塞巣へ力がかかる吻合を行うとカッテイングが発生し,出血が管理できなくなる.

 そのため健常部に糸をかけ,梗塞巣を広くパッチで覆う.心尖部に限局した梗塞に基づく破裂では,切断術による修復が可能な場合がある.また,
破裂に至っていなくとも,仮性心室瘤は破裂の危険が高いため緊急手術の適応である.手術成績はblow-out型は不良であるが,外科的治療を適切・
円滑に行えば長期生存も可能である.
5.5.1 左室自由壁破裂
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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